マンハッタン・ラブストーリー

TVドラマ「マンハッタン・ラブストーリー」(http://www.tbs.co.jp/manhattan/)が相変わらず面白い。とばしてる。はじけてる。ブラボ−。
8人のアルファベット順の名前を持つ主要人物が、そのアルファベット順に片思いの連鎖をしていく。そのすれ違いっぷりを描くコメディー。小泉今日子松尾スズキ及川光博らが主演。

タイトルを裏切ってこれは「アンチ・ラブスト−リ−」だ。公式webで松尾スズキも言ってるけど、このドラマを見て「あー恋愛したい」とか思う人はちょっと少ないだろう(まるでいないとも思わないが)。
「恋愛って、恥ずかしくて笑える」という前提で全てが回ってるから、色恋沙汰のうすらみっともなさがじゃんじゃんネタとして笑われる。

とにかく凄いのは、異常な密度の高さだ。主要な8人の登場人物は、毎回必ず取りこぼしなく描かれる。各話でスポットの当たるキャラはいるのだが、それ以外のキャラのストーリーも、全部一気に同時進行している。
こうなると、余計なカットは撮れない。1時間の枠で、いったい何カットあるか分からないが、全カットが必要なカットだから、もう濃密なることこのうえない。以前も書いたけど、最初見た時は何かのダイジェスト版かと思った程だ。

で、このドラマのスタッフは、その全カットで絶対遊ぶのだ。設定であそび、台詞で遊び、芝居で遊び、演出で遊ぶ。ほとんど空間恐怖みたいな感じで遊びを入れていく。はっきり言って異常。週1でこんなドラマ撮ってて、死人はでないんだろうか。

このドラマは、キャラクターの「内面」とか「悩み」とかを(実は)描かない。昨今はやりすぎたトラウマも当然描かない。描くのは登場人物の関係性だけで、そしてその関係の「ズレ」だけをひたすら追っていく。ホンもそうなら芝居もそうだ。及川光博は「王子様芝居」をし、小泉今日子は「元ヤンキー芝居」をし、酒井若菜は「ぶりっこ芝居」をしている。演技はその人物の内部を描かず、たんにその「キャラクタ−=人物タイプ」を描くだけだ。要するに、全編これマンガ芝居だ。

人間ではなく「キャラクター」の「関係性のズレ」だけを、超高速/高密度で描くという、ヒューマンな要素のかけらもないドラマなのだけど、そんなドラマが、どこかでリアルな物に触れてくる。それは僕達の「恋愛」が、実は紋きり型の様式にハマった中での、関係性のズレでしかない、ということだけではなく、そんな程度のものからでも、一切自由になれずに七転八倒するところに一瞬現れるものがヒューマニティなんだということを示しているからかもしれない(柄谷行人だったらヒューモアというかも)。