イラク問題

id:kanryo:20031214で以前僕がリクエストしたイラク問題への解答が書かれている。まずは謝意を表します。
すでにイラクへの自衛隊派遣は閣議決定され、1月にも第一陣が出ようとしている中で、「イラクへの自衛隊派遣の是非」を問うことには徒労感しかない。でも、すこしだけ。

僕にはid:kanryo:20031214の文章で書かれている言葉がよくわからない。ここで書かれている「国際貢献」の「貢献」て何かがわからず、「国際社会」とはどことどこで誰と誰なのかがわからず、「日本に有利な情勢を作りだす」というのは、いったいどこの誰にとって有利な情勢なのかがわからない。

この文章は、そういうことはまるで自明のことのように書かれている。そしてそういう自明な言葉を列ねていけば、自分の意見は相手に伝わるという前提で書かれている。例えば「イラクが平和で豊かな国家になるためのお手伝いをしています。」とくり返して言うことが、何もしないよりマシだという前提に立っている。でも僕にはその前提が分からない。イラクが復興してくれたら日本の家電が売れるという前提がわからない。イラクが復興してくれたら日本の家電が売れるという思惑で自衛隊が来ているということを、イラクの人々が感じ取らないという前提が理解できない。

平明な言葉使い、流れるような論旨。明確な損得の価値観。破綻などないかのようなその文章は、さらりと読んでしまえば、何一つ不明確なものはないように見える。そしてこの文章で書かれている言葉は、それを読む人に、立ち止まって考えることをさせないような、凄く高度な技術が使われている。「国際貢献」といえばだれにとっても「国際貢献」であり、「メリット」はどこまでいっても「メリット」だ。変なところはないでしょ?だからこの言葉を元にして次の論理に移れるでしょ?で、結論はこれです。

ぱっと読んだだけならそれが「イラクへの自衛隊派遣は得だ」という話しだということが分かる「気がする」。その前提は「この戦争と戦後統治でアメリカは得をする」のであり、「そのアメリカについていく以外日本に得なことはないからだ」ということにあるらしい、ということも分かる「気がする」。

でも、一度この文章に書かれた一つづつのセンテンスや単語を疑問に感じたら、とたんにこの文章はわからないことだらけだ。

このまま話が進んで、イラクの人々がアメリカの意にそう政権を樹立し、周囲のアラブ社会がそれを支持し、テロがなくなり、結果的にアメリカがまず第一義的にイラクの人々の資産であるはずの石油を自分の利益になる形でコントロールでき、そのおこぼれに日本があずかれる日がやってくる、そんなオイシイ話しがありうるんだろうか。何の理念も道理もないアメリカのイラク侵攻と戦後統治は、本当にアメリカと日本に利益をもたらすんだろうか。

アメリカがイラク侵攻の大義とした台詞を、真面目に信じている人は、とっても少ないと思う。アメリカの大義アメリカのエゴでしかないと多くの人々が感じている。kanryo氏が言う「飾り」としての大義は、飾りとしてそもそも成立していない。エゴをかくしきれていない飾りは、ただの欺瞞だ。そのような状態からアメリカと日本に利益をもたらすような中東地域の安定は得られるのだろうか。

「得られるように努力するために自衛隊を派遣する」のだとしたら、その論理は極めて危ない。要はアメリカおよびその協力者の、エゴをモチベーションとした軍事力で、イラクを押さえ付けて安定化を図るということだからだ。アメリカのイラク侵攻がひどいものだということは、id:kanryo氏自らがコメント欄で認めている。エゴをモチベーションとした軍事力でイラクを安定化できる筈だという前提が崩れてしまえば、この文章の主軸である損得の話しは瓦解する。

この文章は、「国際貢献」と自分がいえば「国際貢献」だと相手も同意し、「大義」と言えば相手も「大義」だ、と理解するということを疑っていない。要するに、同じ価値観を共有する人々にしか伝わらない言葉で書かれている。そしてどうやら僕はその輪の中に入っていないらしい。もしこの文章が「(今の)日本人だったら、この言葉はわかるはずだ」という土台に立っているなら、そしてその土台が多くの日本人に共有されているなら、そしてその土台を共有していない人間は日本人でないのなら、僕は日本人ではないのだ。

だが、注意しなければならない。外交は、日本人相手にすることではない。

ただ一つ、今後重大なのは自衛隊の派遣うんぬんでなく撤退に関してなのだ、という論だけは、しっかりと理解できた。この視点は僕にはなかった。自衛隊の派遣も「国際貢献」も是認できない僕には、その問題にすぱっと意識を切り替えるのも抵抗があるが、しかしこれは現実に確かに考えるべきことだろう。むむむ。