森美術館完全?レビュー#4

六本木クロッシング」展・全作品コメント、その2。
書き忘れてましたが、「六本木クロッシング」展では観客による人気投票が行われています。入口ブースで用紙を配っていますので、それを片手に、「1番気に入ったもの」を探す感覚でみると、作品の数に呆然としてしまう危険は多少薄れます。僕は投票しなかったのですが、予想としては後半の展示であるニブロールの作品あたりが人気になりそう。東京ピクニッククラブも高得点かな。

●11. 加藤豪
ものすごく現代美術らしい作品。なんだか懐かしい感じすらします。清く正しく美しい現代アート。なんでもありと言われていたこの世界も、ほんの少し前までは、ある概念のフレーム(と工芸的質?)というのが前提とされていた時代があって、少なくともその水準は維持されていたわけです。こう底抜けになってしまった今では、今回のような作品はむしろ保守反動という感じです。加藤氏が提出しているフレームは、洗練されすぎて若干単純になってしまっている気がしますが、そもそも「概念のフレームってなに?」的状況下では、正統的美術家の意地を感じさせるという意味で貴重でしょう。

●12. 青木陵子伊藤存
キャンプ用の小さなテントの中で、ドローイングや刺繍によるアニメーションを見る作品。カップルが入ってると、それだけでやたら淫媚です。つうか、大人が2人入ったらそれだけで窮屈な作品です。もしかして子供に向けられた作品?とにかく、仲良くなりたいという下心をもって異性を誘って来た方には、辛抱たまらんでしょう。逆に一人で見ているのは結構イタイかも。致命傷は、中にカップルが入っていると、いつまでもいつまでも出てこない点です。お前ら何やってんだ。
作品自体は、素朴なタッチでありながら壮大なテーマを感じさせる内容で、なかなか楽しいです。しかし、刺繍アニメて。

●13. やなぎみわ
やなぎみわの作品は、なんというか、大胆に露骨に「物語り」に接近しています。この人の動向をマメに追っているわけではないのでわかりませんが、どうやらこの作品は長く続いているシリーズで、この作家の資質は本来こういったものだったのでしょう。
初期の代表作「エレベーターガール」は、遠回しに物語りを「匂わせる」という、日本的なポルノグラフィーの伝統を受け継いでいて(綿谷りさ?)、「匂わせてカワす」という作品をひたすら洗練させていく人なのかと思っていましたが、洗練の度合が進む程ダイレクトに「物語り」が前面に押し出されていくというのは、良くも悪くも時代にフィットしていると言えるでしょう。しかしなー、このサイズのシルバープリントって、どういう設備でいくらかかるのだろう。機器メーカーのスポンサードがあるんだろうけど。

●14. 眞田岳彦
獣毛を使ったオブジェクトが、たくさん置いてあります。以前ここで書いた高橋究歩さんの作品を思い出しました。(id:eyck:20031225)。というか、ほぼ同じ感想をもちましたので、そっちを読んでください。
品がいいといえばいいのでしょうが、この会場では、もう少しインパクトを持った展示をしてもよかったかもしれません。触っても怒られないのかな?試してみなかったのでわかりませんが、触れるといいですね。でもこの観客数にそれを許したら作品が荒れるよなぁ。「触れる作品のコーナー」を別枠で設けるという手はダサイですか。

●15. オノデラユキ
とてもファッショナブルな作品。そのファッショナブルな感覚と、感性度の高さが、逆に作品の強度をおとなしくしてしまっている印象があります。もうすこし、野蛮でいいんじゃないでしょうか。完成度ばかりが見えてしまっているというのが弱点でしょう。これもシルエット内部のディティールを見えにくくすることで何かを「匂わせ」ようとしているんでしょうが、間違いです。むしろディティールが強く前面に出ていて、全体のシルエットが崩れる直前まで細部の主張を強めるべきです。バラバラになる直前の状態で、危うく全体が保たれているくらいで良いはずです。つうかそうしろ。

●16. 生意気
出たガジェット集積系。また「系」とか言ってしまいましたが、本当に良くあるパターンです。こういうがらくた寄せ集めインスタレーションは、1年に1度、必ずどこかの美術館でみかけますが、僕はもう飽きました。ここで使うパソコンをiMacにしたのは失敗だと思います。絶対昔の中古Mac(あるいは国産パソコンかDellのハード)にすべきでした。真新しいiMacにビニールテープはって「ガジェット感」を出そうとしてもダメです。作家とキュレーター双方のミスです。

●17. 西尾康之
アジアの土着的心性を手仕事の集積で見せる展示、に見えるんだけど、そんなことは全然どうでもいいのかもしれません。出品者中、日本人が多数のはずなのにアジアに依拠した作品作りをしている人はいないに等しく、それは日本という場所の文化的位相が妙なところにあるからで、そういった「妙」さから、この作家が逃れられているとも思えないですし。
この作品に、ある質を与えているのは勿論「陰刻鋳型」という手法で、この作家はこの技術に単純に魅了されているんだと思います。極めて肉感的で身体の痕跡がダイレクトに作品になっているにもかかわらず、間に鋳型という「版」を挟むため表面の質がニュートラルになるという、版表現独特の効果があります。
製作における強い肉体の刻印と、作品の表面がもつクールさの断絶に、この作品の魅力があると思います。

●18. 中村哲也
漆芸を学んだ作家による、「スピード」を感じる造形の追求、だそうです。って、知らないふりしても無駄ですね。すっかり有名な作家さんなので。
この人の作品の大きな要素の1つに「塗装」があったと思うのですが、今回はこの塗装が鈍い金属色単色になってます。このサーフェイスの変化は、何を物語るんでしょう。単に飽きたんでしょうか。

●19. 生西康典+掛川康典
夜景が一望できるガラス面に、ビデオ作品がスクリーンからの反射によって映り込みます。というわけで、夜しか体験できません。やっぱこの美術館は夜向きですね。
六本木ヒルズ53Fの大きなガラス窓に拡がる東京都心の夜景パノラマに、東京大空襲の映像が重なった時はドッキリしました。単純なようで、案外思い付かない手法です。ほぼこの森美術館でしかできない作品で、そういう意味では面白いです。で、この二人の名前の一致は偶然なんでしょうか。

くーまだ半分いってないんですね。まて次回。