森美術館完全?レビュー#5

六本木クロッシング」展・全作品コメント、その3。

ええと、この週末にMOTアニュアル展(東京都現代美術館)とVOCA展上野の森美術館)を見て来ます。ふふふ、どちらもタダ券GET。そちらのレポはこの「六本木クロッシング」展・全作品コメントが終わってからになると思います。MOTアニュアルは会期おわっちゃうかもね。なんか美術館回りが重なってるなぁ。

●20. 渋谷清道
一瞬美術館壁面の装飾かと思う人は…いないか。でも、そう思われてしまうところまで徹底した方がよかった気もします。もっとも、この点は作家もそうしたかったのかもしれません。美術館側が、建物本体の実際の壁面に手が加わるのを嫌って、パネルを立てさせられちゃったんだとしたら、ちょっと可哀相です。実際のところはよくわかりませんが。
これとは別に、他にいくつか個々の作品に対する美術館側の目配りの不足を感じるところがありました。ま、この数をまとめるのでせいいっぱいなんでしょうね。
作品自体に関しては、東洋的世界観を現代美術の手法で抽象化して提出するというのは、それなりに喜ぶ人がいるんじゃないかとは思いますが、僕は興味もてません。

●21. フジタマ
う。面白いかな。微妙。手作りの安っぽい「神棚」を作って友達らしき人々の家をまわり、悩みごと?を解決するために一緒に参拝するという行為の記録ビデオと、作られた「神棚」を展示しています。
「参拝」をチャカしているところが唯一ひっかかりどころですが、案外当人は真面目なのかな。だとしたら、この馬鹿馬鹿しい行為を、もっと徹底的に真剣にやった方がいいと思います。「自分も笑いながらやってるんだよ」というエクズキューズなしに、イタコのお婆ちゃん並みにマジにやって、笑うのは観客だけ、というくらいの開き直りが欲しいです。

●22. 福井篤
なんとなく昔Bunkamuraでみたフォロンを思い出しました。色使いのせいかもしれませんね。周囲を囲いたくなった気持ちはわかります。いろんな意味で、すごく上手な画家さんだとおもいました。でも、これは僕の理解では絵画よりもイラストレーションに近いです。
最近の大きな美術イベントでは絵画が極めて少ない、あるいはまったく無い中、このクロッシング展では多少なりとも絵画を展示しているので、絵画好きとしては嬉しいのです。が、しかし。この画家達のラインナップが悪いとは言いませんが、せめてもう一人くらい、「王道」を歩む人を入れてもよかったんじゃないでしょうか。個人的には古谷利裕氏なんかいいんじゃないかと思うんですが。

●23. 村瀬恭子
先日この日記でベタ誉めした村瀬恭子(id:eyck:20040311)。しかし今回のは印象が薄いです。理由は簡単で、キャンバスからはみだして壁面にまでドローイングするという「絵画の外へ出る」というのをやっちゃったからです。
この人は昔からこういったことはやっているので、別段不自然なことではないのでしょう。が、こういう雑然とした会場ではキャンパスの中に限定した「絵画」に徹した方が戦術的にはよかったのではないでしょうか。今回、画家として召集された人の中ではもっとも実力のある人だと思いますので、もったいなかったです。ちなみに彼女の作品は、現在オペラシティ・ギャラリーで開催中の展覧会でも見ることができます(http://www.operacity.jp/ag/exh49.html)。いや展示が重なってますね。

●24. 渡辺郷
DVカメラを自転車か何かに装着し、駐車場等で他の車と「衝突事故」を起こしてブラックアウトする瞬間を撮影して、繰り返し流すという作品。個人の趣味的にも好きですし、面白いです。「衝突事故」にカタルシスを覚えるというのはクローネンバーグの映画「クラッシュ」でも扱われた感覚ですし、その昔浅田彰が「事故の博物史」というTV番組をやったこともありましたが、今回の渡辺郷の作品の新しさは、その事故が「ショボイ」ところにあります。
映画などのフィクションではなく、マジに事故を起こして映像をとろうとしたら、そりゃ本当の自動車事故なんか起こすわけにはいかないので、必然的にこういう「ショボイ」事故、「ショボイ」映像になってしまうんでしょうが、しかし、僕達が実際に遭遇する事故の99%はこういう、カタルシスにならない地味な事故なはずで、しかもそういった「ショボイ」事故で、あっけなく死んでしまうことだってあるわけです。小さいモニタで、しかも会場のあちこちでひっそりと繰り返され続けている「ショボイ」事故の映像は、なんだか顕在化しない人々の欲望の象徴みたいです。

●25. 伊東篤宏
扇風機や蛍光灯なんかの日常品を組み合わせて、音と光を出すオブジェを作ってます。ティンゲリーみたいに誇大妄想っぽくなく、もっと子供の遊びみたいな感じです。灯のフラッシュでは、光刺戟に弱い人には辛いくらいの明滅があります。ポケモン事件が再発することがないようにという配慮でしょうか、特別に囲われた展示場所は、うす暗くした方が効果的な筈なのに、明るくされていました。扇風機につけられたホースはいい音で鳴ります。この音は好きでした。

●26. 村山留里子
アクセサリー、鳥の羽など、きれいできらきらしたものが集められて、鏡の上に置かれています。ガーリーな世界のグロテクスさみたいなものを垣間見せたいんでしょう。好きな人はかなり好きなんじゃないでしょうか。もっとも、鏡を使ってしまった段階で「これなら草間弥生の方がいいよな」と思ってしまう人も多いかもしれません。台におかないで、壁面にダーッと並べてもよかったかもなぁ、なんて思いました。余計なお世話ですか。そうですか。つうかこの人は立体が作りたいんでしょうね。

●27. 上村亮太
絵?です。特別に囲われた場所では無い壁面にどーんと展示したところは評価したいです。そしてそれをやって埋没しないだけのインパクトは最低限はあります。「ちょっぴり無気味」「ちょっぴり怖い」という、最近の美術の世界で流行りきっている世界観を上手く図柄にしていて、ちょっとイタリアの画家エンツォ・クッキみたいでした。というかはっきり意識しているのかな。しかし絵画の物語り回帰の方向性は、立体やインスタレーションに比べて極端に強くないですか。あらたなるロマン主義の復興ですか。むー。
好き嫌いは別にして、「レシピを教えて」は、なかなかの名作だと思いました。少なくとも効果的です。

●28. 田中功起
中から止めどなく「赤い液体」が出続けるトランクを撮影したビデオ作品。意図的に惨殺死体や殺人事件を想起させるような内容になっています。ただ、床面を緑にしてインパクトを上げようとしているのは効果が薄いというか、蛇足な気がしました。流れ続ける「液体」の音がとても耳に残ります。最後にスタッフロールがでて、「starring:suitcase」と出るのには笑いました。この人のギャグの方向性はマニアックです。

●29. 大木裕之
メインは撮りおろしのビデオ作品なんでしょうが、僕が面白かったのは壁面に貼られたメモ群による作品「エリートへの道」です。この人自身も東京大学出身のようで、日本の東大信仰というものを身を持って体験しているだけに、切実なジョークになってます。昔東京大学へ進学した友人が「東大生っていうのは差別用語だから」と真顔で言っていたのを思い出しました。ビデオの方は、安アパートで変な祈祷士がお祈り?してるシーンが笑えます。

●30. ヤノベケンジ
太陽の塔乗っ取り計画」のレポと構想模型、更にこの展覧会用の新作として、こどもしか入ることの出来ない「森の映画館」があります。「森の映画館」に関しては、子供だって入れないんじゃないかというサイズなんですが、覗こうと思えば外からでも映像が覗けるようです(未確認)。
この人の「ノスタルジック・フューチャー」なノリが、今回はよりダイレクトに自らの幼少時代の記憶(大阪万博)を扱っていて、その幼児退行的性格が前面に押し出されています。科学技術そのものというより、科学技術の(古臭い)甘美なイメージと戯れている姿は、構想模型の水盤の表面に浮遊する会場のホコリのように気分が悪くなります。

今回はちょっと辛口だったでしょうか。ようやく折り返しかー。