美術の条件

美術作品の、最初の条件とは、作品において、作家の特権的な立場が消え去っているということです。逆に言えば、作品から遡行されたものだけが「作家」なのだということです。一般的な意味では、作家はたんに観客の一人でしかなく、作品にメッセージを付与することはできません。したところで、作品の強度が充分ならば、機能しません。作品と作家はまったくの他人です。そうでないかぎり、作品は作家に従属した奴隷でしかなく、美術作品としての一歩を踏み出しえません。

レオナルド・ダ・ビンチの絵画が、いまだ見るに耐えるとすれば、それは彼の絵画において、彼の「思考」がジャンプ台としての役割しか果たさず、それ以外の要素が生成しているからです。実際、レオナルドの手記(岩波文庫)を読めば、彼の絵画に関する思考が、現在では、大部分において意味をなさなくなっていることが分かります。しかし、彼の絵画は、彼の「意図」が精神的、原理的に死に絶えた後も、そのようなものとは無縁の「美術作品」として成立しているからこそ、なんのかんの言っても見るに値するのです(作品例http://cgfa.sunsite.dk//vinci/p-vinci25.htm)。