野沢二郎の絵画

で、その殻々工房の店内にはギャラリースペースが。ここで今、野沢二郎氏の絵画が展示されてる。これも今回の訪問の大きな目的。
野沢二郎という人は、今どきめずらしい「まっとうな絵画」を描いてる人で、web上には良い画像がないんだけど、こんな感じ。数年前のVOCA展で見た人もいるかもね。http://www.midi.co.jp/~akuaku/gallery/nozawa-koyama/n+k.JPG

キャンバスに油絵、というオーソドックスな絵画なんだけど、この人の特長は筆を使わず、「スキージ」というシルクスクリーンを刷るときの大きな「へら」のようなものを加工して、それで描いているところ。描いてる、というよりは、キャンバス上の絵の具をひっかき、こそぎ、また絵の具をのせ…といった事の繰り返しの中から、ある空間が浮上してくる、という感じ。絵の具を「のせる事」と「削り取る事」が等価にあって、その際どいせめぎあいが、あるときふっと、危うい空間を立ち上らせる。
こうかくと「描き方はかわってるじゃん」とか言われそうだけど、この人の絵が「まっとう」なのは、キャンバスと絵の具という、絵にとってすごく基本的な物質(基底)に、正面から対峙して、ぶつかっているからだと思う。

今どき「キャンバスと絵の具に正面から向き合う」なんて事をしている作家に出会うのは、凄く難しい。映像や印刷メディアの方が「絵の具」より遥かに身近なものになった世界では、むきだしの「物質」に向かい合うことが困難だからかもしれない。でも、野沢二郎の絵は全然世界から遊離なんかしてなくて、むしろ世界の中核に切込んで行くような切実さがある。それは、どんなメディアや環境も、その中で生活している人も、物質性をなくしたわけじゃなくて(あたりまえだ)、ただ、その生々しさを忘れてしまっているだけだから、なんだと思う。野沢二郎の絵は、普段覆い隠されていて触る事ができない、なにかの中心を、スキージでえぐりとって見せてくれる。秋には銀座コバヤシ画廊での個展もあるみたいなので、その時はまたinfoを載せます。

殻々工房のお二人も野沢二郎さんも、個人的に知り合う機会を得たことで何か気軽に訪問できる感じがしていて、事実それはそうなんだけど、僕はこの人々を畏敬している。現場では、相応の緊張感をもって彼等の作品に対峙したいと思う。

殻々工房の地図はこちら。絵画の展示は、しばらくの間やってるみたい。
http://karakara.pepper.jp/archives/000013.html