踊るサテュロス

国立博物館唐招提寺展の方は終わってしまいました。仏像やギリシャ彫刻は全然基礎知識がないので、二日に分けて軽くレビュ−。


● 踊るサテュロス
1998年にシチリア沖で漁船によって発見された古代ギリシャのブロンズ像。詳細は以下。

これは今週末まで見ることができます。ケースに入れられず、直接見る事ができる展示は素晴らしいです。


右足、両腕が失われていますがその結果か、螺旋上に旋回する身体がダイナミックに感じ取れます。よく知られるギリシャの彫刻の自然主義的な像は、動きはありながらも基本的に地面にしっかり足をつけ、安定した構造をしており、表情も基本的にない筈です。後半(ヘレニズム期)になると表現が比較的動的になっていったようですが、それでもミロのビーナス、ニケ像等は両足を大地に接し、全体を支えています。


その点、このサテュロス像は極めて動的で、かつ飛翔的です。右足がどのようになっていたのか不明ですが、それが失われた今の状態では、ほとんど重力から自由な形態になっていて、大地から離れ、離床しています。中空のブロンズであるせいもあるかもしれませんが、まったく「どっしり」した印象がなく、軽快です。また、その身体表現も少年を基にしていると思えるほど繊細です。ギリシャ時代もかなり後半のものでしょう。


またその表情も印象的です。顔の雑作自体に明確な喜怒哀楽は刻まれていませんが、螺旋を描く身体のうねりの突端にある首と頭部は大きな傾きを見せ、その動作がギリシャ彫刻らしい押さえた表情に濃い陰影をもたらしています。はめ込まれた目は上昇曲線を形作る身体に直交するように正面からやや斜下に向けられ、像全体の動きを更に複雑にしています。


輸送がたいへんだったろうな、と思います。この像は13日まで上野に置かれた後、愛知万博の会場に移送されるそうです。興味ある方はどうぞ。


踊るサテュロス