バカにもわかる美術の本。(3)

んー、昨日の(2)のタイトルを「描くという思考」に変えました。で、今日は「見るという思考」。
●見るという思考。
作品を見ることで考える、というのは、とてもシンプルだけどとても難しい。人は自分の見たいように作品を見てしまいがちなのだ。作品を見てるようで見ていない、作品をダシにして自分の言いたい事を書いてしまっている本がなんと多いことか。以下にあげるのは、とても真摯に「作品に基づいて」書かれた本。

  • 「絵画は二度死ぬ、あるいは死なない」林道郎著・Art Trace

現在までに3冊刊行。サイ・トゥオンボリ、ブライス・マーデン、ロバート・ライマンというアメリカ現代絵画の画家を扱ってる。更に続刊予定。上智大学で先生してる林道郎氏のArt Traceでのセミナーを書籍化したもので、とても平易。薄いし安いし、中身も外見もチャーミング。特にブライス・マーデンなんか、今日本でこんなに良心的な紹介があるのは本当に素晴らしい。平易と書いたけど、グリーンバーグ以後の美術批評との相関関係に基づいたしっかりした内容なので、美術及び美術批評の入門書としては最高。これだけ重要な本が若手作家のNPOで出版されてるってのが凄いというかなんというか。Amazonじゃ買えないのかな?Art Traceのサイトで買えます。今買えすぐ買えやれ買え。

あとは美術館の書籍売場にけっこうある。僕が見た中では国立西洋美術館、国立近代美術館にあった。Art Traceの自主運営ギャラリーでも買えます。

モネやセザンヌ、マレービッチといった近代絵画のマスター達の個々の作品を、とにかく藤枝氏は丁寧に見ていく。「画家の生きざま」とか「隠された内面」とかの「ドラマ」に逃げることなく、ただただ画面に何が、どのように描かれているかを追っていく。シンプルで厳格な「絵を見る」という行為、そこから生み出される言葉−すなわち「作品」と「言葉」の深い緊張関係が維持されている。作品は簡単に言葉になんかならない。でも、それをあえて言葉にしていくことの難しさと、スリリングな面白さがある。徹底して「作品」の事しか書いてないから、1つ1つの文章は明解だし短い。無駄がなくて大事なことだけ書いてある。1粒で100メートル走れる感じ。ちょっと大きめの書店にいけば買う事ができます。ナディッフにもあったな。

面白い。ちょっと面白すぎか?でも面白いからいいや。ピカソって、有名なわりに「何が良いの?」とか言われがちなんだけど、この本を読めばとっかかりが出来ます。この本の魅力は、ピカソを基点に、いろんな作品への旅を始められるところなのだ。ピカソが「盗んだ」先行する無数の絵画、ティッツィアーノやベラスケス、マネといった作品群に回路が開かれる。これ1冊で、ピカソの背後にある美術史全体に興味が湧くという、大変にお徳な本。しかも文庫だ。どこでも買えるぞ。