ちょっと気楽めにレビューレビュー。
先日、地元の友人と酒を呑む前に、時間潰しっぽい適当な気分で行ったうらわ美術館の「ヨーロッパ絵画名作展」が、妙に面白かった。サイトは以下ね。

うらわ美術館は以前「フルクサス」展をやって、知ってる人ならあっと驚く企画力を発揮したところ。今回は山形県の山寺後藤美術館のコレクション展だそうな。しらないなー後藤美術館。海外の個人コレクターの紹介はたまに都心でやるけど、浦和で山形の(おそらく個人コレクターの)私立美術館コレクションの展覧会かー。ま、こういっちゃなんだが、普通、あんまり期待しないよね。かつてデパート美術館華やかなりし頃、「名画展」と銘打たれた大変にビミョーな展覧会が乱発されていたわけだが、そんなイメージ。まー入場料630円ですよ。いいじゃないですかその辺のバ−でジンバック1杯呑んだと思えば。


ところが案外これが美味しい展覧会。概要を説明すると、「宮廷絵画からバルビゾン派へ」と副題されている通り、1部にロココから始まってサロン-アカデミー絵画、2部にパリを離れて田舎に住んじゃったバルビゾン派+α、3部にその他若干名、という会場構成で、主にコローやクールベなんかが目玉。要は「印象派前夜」がメインで、先日ポーラ美術館でモネやセザンヌを見て来たばっかりの自分としては「印象派という爆発の導火線」を再考できるという、妙にツボにハマった機会となってしまったんだな。


とりあえず目玉のコローは充実してる。序盤戦のブーシェの小作も佳品。ジェリコーが勉強で他の人の作品を模写したものも良品。あとアントワーヌ・ヴォロン「糸を紡ぐ女」は素晴らしいです。静物の得意なスルバランが人物を上手く描いたとしたら、こんな感じかな。ただし、もう一方の目玉のクールベはいまいち大味で、これはがっかり。三鷹ギャラリーの展示を期待しましょう。


ポール・ユエのロマン派っぽい風景画は、水面や雲の表現にモネを先取りするようなタッチがあって(キャプションにもそう書いてありました)、「雲」とか「水」みたいな形態の掴めないものの表現が、いかに印象派にとって重要な契機になったのかが伺えて興味深い。色彩の重視もユエの特長かもしれない。光りと影のドラマティックさに色彩を殺してしまうバルビゾン派周辺画家の作品に囲まれていると、そのことが際立って見える。そのバルビゾン派の中でも、ドービニーは佳品が見られる。今国立近代美術館でやってるゴッホとの繋がりが有名らしい人で(知りませんでした)、ゴッホ展を見ていればもっと突っ込んでみられたかもしれない。


「風景の発見」が近代美術にとって大きなものだったというのはわかるけど、いったい「何」が「大きかった」のかはバクゼンとしてたりする。いや、言葉で詳細に分析されてもピンとこなかったりする。でも、こういう「革命前夜」の作家の良い作品を見ると、それは水とか雲とか空とか森とか、そういう「うつろいやすいもの」をどうやって絵筆で表現するか、というとても実際的な課題だったのだということが了解できる。「ルールとパターンが決まっていて、モデルやモチーフが目の前にあってもそれは人為的に固定され光りもコントロールされていて、そういうものを見て描くと“しっかりした視覚”がアプリオリにあるように感じられるけど、いざ実際に田舎に出てナマの風景を相手にしはじめて変化する光りや動く雲や水をおっかけているうちに、しっかりした固定的な主体やら視覚やらがウソだってことがわかっちゃった」という、認識の変化の過程が赤裸々に描かれている。


で、やっぱり革命は歴史を必要とするのだと思う。歴史という言い方が抽象的なら「枚数」と言ってもいい。具体的な、数えられる絵の枚数だ。マネやモネが成立するには、その前提として、一定の枚数の試行錯誤が必要で、印象派の場合にはそれは一世代分は確実に備蓄されなければいけなかったんだと思う。逆の言い方をすれば、そういった歴史をきちんと学んで考えた人が「革命」を起こしたんであって、歴史を無視した人が何か花火を上げても、それは最大限上手くいっても「お祭り」か「イベント」で終わる。革命にはならない。この、うらわ美術館での「ヨーロッパ絵画名作展」は、そういう歴史を教えてくれる展覧会だと思います。


なんか当初の予定を超えたスゴイ誉め方になっちゃったけど(いいのか別に)、相応のB級感がこの展覧会にはあって、それはそれで悪いことじゃなくて楽しめます。ただし、10点くらいは「見ると目が痛みそう」な絵があって(パリエイの「夜会」とかは、本気で死にそう)、見に行く人は覚悟して下さい。とにかく見どころはコローとその回りです。最後にある伝ムリーリョのマリア像はまぁまぁ。近所の方、どうですか。


あ!カタログには一言。多分入場者層を考えたんであろう解説は平易で基礎的で、なかなか親切な内容でためになったのですが、いかんせん図版が非常に悪い。近年のカタログではなかなか見られないくらいにダメ。コントラスト上げ過ぎ、あるいは全体に明度を上げすぎで、かなりの枚数の絵の明部がトンでしまっています。これは画像の分解の問題でも刷りの問題でもなく、その間の色校正の問題だと思います。色校で編集側がもうワントーン中間調子を生かす指示を出すべきでしょう。これは今回のスタッフの仕事じゃなくて、多分元の美術館のカタログの画像データが流用されていると想像するんですが(違うの?)、だとしたら元のプレーンな画像データはもうなくなってるでしょうから(OKが出た画像しか残されないでしょう)、やっぱポジから再分解かな。え?デジカメで撮っててポジもない?バカモーン、じゃぁ再撮影だっっ!2000円は解説文代と思いましょう。あるいは安い入場料の補填とか。


●山寺後藤美術館所蔵ヨーロッパ絵画名作展−宮廷絵画からバルビゾン派へ−