ギャラリー21+葉で池内晶子展を見てきました。下記のページを参照して下さい。

会場手前、高さ160cm程の壁面の4点から絹の糸が伸び、無数の結び目で結節されながら、全体に擂り鉢状の形態をなして床面のやや上のあたりまで糸の自重によって落ち込み、そこでちいさな円を形作って終わっています。その終了点と、大外の4点の開始点を結ぶ4辺には、結節点ごとに長さ数cmの余り糸が垂れ下がっています。また、会場奥には、高さ40cm程の高さの壁面の、やはり4点から伸びた絹糸が、これは水平に結び合わされ、格子状の平面を作り、中央では円を描いています。この円に達した絹糸も余り糸となって垂直に垂れ、その部分はある深さを持った穴のように知覚されます。


糸の強度が重力の作用と鋭い拮抗をなし、危ういバランスによってある形を作り出します。この作品に不用意に触れ、力をわずかにでも加えてしまえばたやすくそのバランスを崩し、作品は崩壊してしまうと思え、会場に入ったとたんに身動きがとれないような緊張感を覚えます。ギャラリーのホワイトキューブの中では細い絹糸一本一本を見定めるのは存外の集中力を必要とし、また観客の動きによる空気の流れや呼吸などまでこの繊細な構造体は感知し、地震にみまわれた高層ビルのようなゆったりとしたゆらめきを見せることから、観客は自分の一挙手一投足まで意識しないわけにはいきません。


糸が絡まりあい、ネットを形成しながらある形態を描くことから、作品それ自体で完結した「立体作品」のようにも感じられますが、実際にはこの構造体は、周囲に人がいれば、かならずその人の影響を受け、同時にその極端な繊細さとテンションの高い地点での均衡を観客に知覚させることで、観客の行動や呼吸にまで影響を与えます。こちらが動けば作品も微妙に動き、そのことに怖れを感じてこちらが止まると作品の揺れもゆっくりとおさまる。しかも、そのような相互干渉を意識せずにこの作品を経験することはできないと思えます。


今回の池内晶子展では、日頃感受することがない(できない)絹の糸という素材の特性や質量、強さの「程度」といったものが「糸を編み、張る」という技法によって露出され、(見なれているにも関わらず)見なれぬ物質として提示されています。そういった素材の探究が、石や木材などによる無闇な重さの強調や熱による変性といった「迫力勝負」「強さ勝負」とは対極的な手さばきで行われていて、その結果が、観客の身体にまで働きかけざるをえない「ぎりぎり」のところにまで及んでいるのだと思えました。また、この作品は「空間を効果的に演出することで、あるイリュージョンを観客に与える」という種類のインスタレーションではないことは注意されるべきです。


●池内晶子展