上野の国立西洋美術館の常設展示で、マリオット・ディ・ナルドの「聖ステファノ伝」を見た時のメモ。

  • トスカーナの多翼祭壇画の下層部分(プレデッラ)。
  • 3分割された画面に6つの情景がある。つまり、1画面に2情景が描かれている。
  • 議論した反対者たちにユダヤ寺院から引きずり出され、石を投げられながら「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と言って殉教したステファノの物語りが描かれている。
  • 左翼1枚目は「説教するステファノ」「ユダヤ寺院でのステファノ」
  • 中央2枚目は「聖ステファノの殉教」「聖ステファノの埋葬」
  • 右翼3毎目は「聖ステファノの遺体を運ぶ航海」「聖ステファノと聖ラウレンティウスの遺体の合葬」
  • それぞれの板絵は、ほぼ中央にどれも、うねりながら右上に向かってのびる岩が描かれる。この岩によって、各作品は2場面に分けられる。
  • この岩はややのっぺりとした質感で描かれ、頂付近に小さな樹木が描かれる。
  • この樹木は、ことに左翼/中央の作品で人物との関係から「手前」にあるように見えるが、大きさが極端に小さく「遠く」にあるようにも見え、不自然に感じられる。
  • 中央の作品の右辺に接する色面は緑で、草地が描かれる。この緑は右翼に連続してあるが、右翼の緑は海を表している(色のボリュームとしては連続するが、それが意味するものは違う)。
  • 右翼の2場面を分ける「岩(海岸)」は、左下から右上にのびる途中でy字に分岐し、左上にのびる線は町並みに一体化しやがて最遠景の山になってゆく。
  • 全体に、岩、樹木、草、海といった自然物に、時空間の変容の役割が付加されている。ことに樹木は異なる2つの時空間の狭間にあって非現実的なあり方をし、岩はうねり、せりあがる「動き」によって「固定的なもの」ではなく「変化」を指し示す。この岩に「固さ」がなく、ぬめっとしたテクスチャをしているのはその為だと思える。