観光・イタリアルネサンス(28)

●参考図書

書いていない作品が山程あるが、とりあえず打ち止めとする。参考図書を▲事前に読んだもの、■現地で買ったもの、△事後に読んだものの3回にわけて挙げる。イタリア行きなどもう一生ないかもしれないのだから、事前勉強なしに真っ白な心で、なんていう事も考えず必要な本は読むことにした。ま、こういう“貧しい”旅はお勧めしない。


地球の歩き方フィレンツェトスカーナ
出だしが単なる旅行ガイド本かよとお嘆きの方。なめてはいけない。このガイドブック、扱ってる場所が場所だけにほとんどルネサンス美術の教科書である。各教会の平面図に誰のなんと言う作品があるかがマッピングされていて、それらの作品の解説も要を押さえている。著明な作家に関してはコラムがある。誰が書いているのだろう?もし現地に行くつもりの人がいたら、ガイドブックはこれを推す。ディティールに関して少し「えー」と言いたくなる所はあるが、とにかく予約の取り方(ウフィッツィとか)から現地に行った読者の声まで拾っていて、実際的かつ勉強になる。現地の情報に変化があるから、最新版を新刊で買ったほうがいいかも。


ルネサンス画人伝(ヴァザーリ
出たな妖怪、という感じで定番だが、意外と読まれてないかもしれない。イタリアルネサンスの画家達の評伝集。書いてあることは案外素朴な伝承と、果てしない褒め言葉の雨あられで、しかも間違いが多いから巻末の訳註を読みながらでないとヤバいが、それぞれの作家がどのように伝説化され、各作品がどういった背景をもって描かれたのか、すごく現場の空気に近い(この本だって事後に書かれたのだから「そのまま」ではないが)ものを伝えてくれる。新刊でもあるけど、古書でいいんじゃないでしょうか。高いし。フィレンツェのドゥオモの天井画はこの人の作品でした。


▲象徴形式としての遠近法(パノフスキー
ソフトカバーで出てるおかげで読みやすい。本文は意外なくらい短い。で、相変わらず注釈が本文より長いというパノフスキーらしい本。もう徹底して絵を図像として扱ってる。というか、図版を比較検討することでしか見えてこないものを抽出してる。現場に行って現物を見るとズレを感じるのだけど、逆を言えばナマモノを見ることの不思議さとか面白さを逆照射してくれる。勿論勉強にだってなる。比較的高くないし。


▲異教的ルネサンス(アビ・ヴァールブルグ)
ちくま学芸文庫で読めるヴァールブルグ。全集も出てるからそれを読めればベストだけど、新刊だと1冊5000円もして大変。最初の1冊としてはいいんじゃないでしょうか。もちろんルネサンスに、これだけの「異教」性がある、というよりは、当時の事を考えれば、多くの人の意識を規定していたのはむしろそういったもの(占星術とか)の方が主流だったという「意味内容」も面白いんだけど、同時にそういうものをあぶり出す手付きの方が前面に出てる。まぁ一から十まで文献派であり図書館の鬼であるのだ。というか自分の文献コレクションで図書館つくっちゃった。それがヴァールブルグ研究所になってパノフスキーゴンブリッチカッシーラーが出て来るんだから恐い。


▲イタリア・ルネサンスの文化(ブルクハルト)
パノフスキー、ヴァールブルグときてブルクハルト。ベタですかそうですか。これは別段美術の事なんか扱ってない。ルネサンス期イタリアの政治、経済、文化、風俗etc.をだーっと書いてある。なんというのかな、ルネサンスを産んだ人々の活動全般というか、個々の作品が、どんな風景の中にあったのかが見えて来る本。堅苦しいことは案外なくて、当時のイタリアでは悪口が流行ったとか、チェザーレの話しとか、普通に面白い。


ルネサンス・経験の条件(岡崎乾二郎
何度も言ってるけど、この本のポイントは「面白すぎる」の一点につきる。なんだか最近は聖典のごとく語る人がいてびっくりするけど、こんな暴力的な本も珍しいのであって、個々の作品を見るといかに岡崎氏が無茶してるかが分かる。例えばマザッチオの三位一体では、キリストが手前の寄進者と「同じ位置にある」と設定されて論が進められるけど、実際はキリストは特権的なマチエールを付与されていて、他の人物のどれとも違う位相に置かれている。ツッコミを入れながら読むべき本で、しかしその圧倒的な論理展開が、ルネサンスの作品についての本、というよりは、ルネサンスの作品そのものに見えてくるのが魅力。


▲イタリア・ルネサンスの巨匠たち
ハンディな画集。もともとイタリアで刊行されていたシリーズを東京書籍が訳して出版したもの。画集として使えるのは勿論なんだけど、それぞれの作家・作品について専門の研究者が基本的な概要紹介と解説をしてる。やや硬い印象だが、勉強になる。正直に言うとこの本での「学者さん」の文章というのはあんまり読みやすくないし、魅力的でもない。それでも、ヨーロッパっていうのは、こういう普及版の画集にこれだけの解説がついてくるのか?と驚く。在庫稀少みたいだから、見かけたら買った方がいいです。僕が今回参照したのはジオット、フィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコ。マザッチオは売リ切れてた。


アサヒグラフ別冊 美術特集
これも廉価な画集。昔(1989年とか)に出されてた、薄いもの。学生時代に重宝したし、大判なのは魅力だけど、ちと本の劣化が早いかな。まぁ値段を考えれば文句は言えないんだけど、同じ普及版でも上記の「イタリア・ルネサンスの巨匠たち」と比べると、ちょっと溜息が出る内容ではある。なにしろtxtが池田満寿夫のエッセイだったりする。いやいいんだけど。古いし、制作年とか最新の情報とけっこう食い違う。今買うのは難しいだろうけど、古本屋で見つけることはできるのではないか。ボッティチェルリラファエロの項で参照。


次は現地で買ったカタログを挙げます。