何時の間にか個展が迫ってきた。とにかく搬入当日の天候が心配で(雪になったらヤバい)、あとの準備はだいたい終わっている。こういう妙な時間があるところが何か変で、僕は個展当日の朝まで描いてるとかいう経験はほとんどないのだが(そんな時間のとれなかった作品を出品する余裕など、僕にはない)、それにしても週末には個展なのだ、という感覚がつかめない。正直約5ヶ月も展示期間があるとなると、あまり気を張っていられないというのもあるが、まず最大のポイントは今回出品する作品への姿勢にあると思う。いわば「個展のために」描いた作品がまったくない。個展初日に向けてがんがんテンションを上げてドカンと発表!みたいな心理的盛り上がりを一切欠いている。


別にいままでの個展だってその為の作品、という事もなかったのだが、ここ数年は結果的になんらかの形で発表する予定があり、そうなると製作の途中で必ず展示予定を考慮してしまう。逆算するとこの日までに仕上がってないといけないとか、そういう現実的なことは、いやがおうでも緊張感として胸にあるものだし、たいていの発表は2週間とか、短いと1週間で終わってしまうから、どうしてもそこに意識が集中していく。今回は個展の予定を定めないで1枚1枚と作品を積み重ねていた中で、秋口になって冬にやりませんか?とお声がけいただいたものだから、もう本当に「有りものを出す」事になった。そうしてみると、個展用に描いてたわけじゃない、と言っていた絵が、実はすごく展示というものから規定を受けていたということが改めて目に見えてくる。


個展準備において会場の広さや天井高というのが空間として把握されていると、そこから例えば作品のサイズが規定されていくものだし、他にも途中の段階で判断に迷ったときに「あそこで展示をするから」ということが、技術的な選択肢の中からどれかを選ぶときの理由になっていくことがあり、その積み重ねは確実に作品の質の方向を定めていく。とにかく今回の出品作を選ぶ時、けっこうな数の作品を「おさまらない」という理由で外すことになった。ぶっちゃけ、4メートル×40cmの作品とかは、これを展示することでハジかれる他の作品のことなどを考えると到底持っていけない。今年は小さな作品もいっぱい描いたし、2メートル40cm×60cmとかの作品は持っていくことにしたから(展示するかどうかは別だが)、そういうものを限られたスペースで、なるべく良い状態で見てもらうには、あまり無茶はできない。飲食店でもあるのだし、お客さんのカンに触るような、奇をてらったことはしたくない。


こうなると、いわゆる「個展の準備」は、先日も書いたパネルの製作とかDM準備とか(これは今回プロの方にお願いしたが)、そういう、絵を描く工程以外のことになってくるし、まぁそういうものは多少場数を踏んだ人ならある程度「読み」が効く(やってはいけないのは絵の内容において「読みを効かせる」行為だ)。今であればDMの発送作業とかになる。こんな中で、ふとアトリエにある梱包待ちの作品を見ると、なんだかもう既に自分の手を離れてしまったかのような気になってくる。いずれにせよ、こんなにも「作品の事しか考えてない純度」の高い製作というものは本当に久しぶりで、あまりに作品個別のことしか念頭になかったので、逆に会場に置いてどう見えるのかがまったく予想できず、そっちの方が不安になる。一応壁面の長さや性格に基づいて、これはあのへん、とかアタリはつけているのだが、こんなことは本当に現場でないとわからない。


Be-h@useで作られた殻々工房は、冗談抜きで本当に良い空間で、僕の知っている範囲でこれほどギャラリー+Barという形式を隙なく、かつリラックスした雰囲気にしている所というのもない。飲食店で絵も飾る、という場所は都内でもあるが、大抵の場合は飲食店としての機能が重視されて絵が雑に見えてしまうか、下手にギャラリーとしての機能が重視されていると到底おちついて腰をおろせない。殻々はその両方がまったく互いを相殺することなく成立していて希有な例だと思う。今、同じ那須にあるレントゲンヴェルゲの芸術倉庫で、内海聖史氏が製作活動をしているのだが(http://uchiuminfo.exblog.jp/)、あの内海氏が「カラカラ工房の空間美しい」と言うのだから、押して知るべしだろう。で、そのような空間の事を一切頭におかずに描かれた作品を、長々と置かせてもらえるのは嬉しいのはもちろんだが、逆に緊張もする。で、普通の個展ならそういう緊張からもう少しバタつく筈なのが、なんだかリングに登る直前のボクサーの気分であと数日過ごすというのが、やっぱり「変」なんだと思う。


●なんだか文字化けしていたようなので、サイト本体のNewsページ修正しました。近日バスの時刻表なども載せます。