上手に眠れない。別段不眠、というほど大げさなことじゃない。1日、なにをどうやっても眠れなかった日もあったけど、あとは適当にうつらうつらくらいはするのだし、日常生活が破綻しているわけでもない。言ってみれば「困ってない」のだけど、少しだけ乗り物酔いに近いような不快感がずーっと頭や眼に感じられて、もうそれだけでなんだか悲しい。豊かな眠り、というのはかなりな程度豊かな1日を裏付けてくれるようなところがあって、別になんてことはない日でもぐっすり眠れればそれだけで私は幸せになってしまうし、逆に妙に眠りの質が低いと不毛な気分になる。


良くないなぁ、とおもいながらも、こういうときはお酒に頼ってしまう。たしかに寝る前に酔っぱらってしまえば朝まで昏倒(おおげさ)していられるけれども、一人で自宅でウイスキーをあおっていて翌日二日酔い気味、なんていうのは最悪だ。もともと体格がないくせに、「寝酒」のつもりでボトルの中身が激減していると、それだけで罪悪感が(しかし、何に対する?)侵入してくるし、自分の体が心配になる。肝臓のあたりが重い気がする不安感というのはいやなものだ。それでも夜が来ると、眠れないのではないか、という強迫からまたキャップを開けてしまう。


楠本まきが言うように、眠れないなら起きていればいい、というのは(結果としてそうなってしまっても)あまり解決にならない。不眠は眠くならないのではない。眠いのに眠れないから辛いのだ。難しい本や退屈な本を読んで眠れるというのは全然不眠ではない。あと、こういう時に絵を描いたりするのはけっこう危険で、わりかし本気で眠れなくなってしまう上に、妙なテンションになってしまって失敗しやすい。


どこかに不安でもあるのだろうか。睡眠の不調がはじまると、昼間の光線が妙に刺激的になって感じられる。壁や道の照り返しが、どこかとげとげしく非-親和的に感じられる。薄いベールがかかっているような感覚でもあり、逆に普段かかっているベールがはがれて自分に迫ってくるような気分もする。なんだか人の顔や植物までもがビカビカ・ギラギラしているような錯覚を覚える。平衡感覚が少し狂っているような(だから乗り物酔いっぽいのだ)、口の中が酸っぱいような気がする。


こういうのは、なぜか私の場合、時折(1年に1回くらい)やってくる。放っておけば治る筈なのだけど、今回はなんか長い。


工藤幸雄氏が亡くなっていたことをさっき知った。