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・新しく建てたアトリエ兼自宅には土間がある。自分が製作で必要な各種作業、木材を切ったり組んだりする際に使うかなと思っていたのだけれど、やはり1Fは基本的に生活空間なので、当初の予定より大幅に狭くなってしまい、結果でき上がったのはなんとも半端な、狭く帯状の土間だった(見に来た友人に「なんで土間にしたの?」と言われた)。それを補う、という意味もあって、ここ数日は土間から外へ張り出すデッキの製作にかかっていた。いわゆるウッドデッキというやつで、これは新築時に予算の都合で付けることのできなかったグレーチングによるテラスの代替にもなる。
・ウッドデッキは那須の殻々工房にもあって、これはもちろんセルフビルドだった。去年の自分の個展で訪れた時に、ずいぶん丁寧に見させてもらっていた(
http://wiki.livedoor.jp/karakara_factory/d/%A5%AC%A1%BC%A5%C7%A5%F3%A5%C7%A5%C3%A5%AD%A1%BF%B4%F0%C1%C3%A4%C8%C1%C8%A4%DF%CE%A9%A4%C6)。ギャラリー部分だけでなく住居部分のプライベートな空間に作られたデッキもあって、これは製作中だったのでより参考になった(http://karakara.pepper.jp/blog/2009/11/post_370.html)。メールでもアドバイスを受けた(ありがとうございました)。工房長に言わせれば「大丈夫。気楽に作れます」との事だったのだけれど、彼等は自宅だってハーフビルドしてしまう。簡単に鵜呑みにもできない。けれどお金がないのは事実なので、結局自分で作ることにしたのだ。配偶者が随分情熱的にネットで情報を集め、木材の最安値を調べて、それ以外の基礎ブロックなどは近所のホームセンターで買った。
・木材はキャンバスの木枠にも使われることのあるレッドシダーで、丈夫だが扱い易い。おおよその性質は了解できる範囲だったが、いかんせん量が多く長尺で重い。パワー勝負の作業になった。テーマは「切らない」。電ノコで木材を切るのは精度が問われるし作業中の安全も気にかかる。売られている材木の長さでデッキのサイズを決めてしまい、わずかに支柱だけ適当なサイズでカット加工を依頼して発注した。実際には平坦ではない地面に対して支柱と基礎ブロックの高さで水平を出すから、まるでカットしないわけにもいかなかったが、それでも随分この方針で労力が削減できた。基礎になる根太と支柱の高さの関係で水平はかなり調整できるから、もう少し細かく検討しておけばノーカットで行けたかもしれない。
・最も重要だったのは四隅の基礎柱の位置と高さの設定で、地面が一部高くなっていたので、その周辺は柱をカットすることにした。家の掃き出し窓を基準にして1辺を固定し、そこから直角を出して(3:4:5の比率で計算する)、両端を延ばして行く。延びたらそれを繋げる。塗装を含め、ここで2日消費した。あとは間の基礎を並べて行って根太を置き床板を張る。作業を始めてからおおよそ3日半で約3m60cm×2m40cmのデッキが完成した。水平器を載せてみれば、始めてにしてはかなりの精度で作ることができたと思う。これで室内の土間と連続したそこそこ広い作業場が確保できたことになる。
・私が扱うような木材は、もちろん工業的に加工されたものなのだけれども、それでもふとした拍子にそれが「自然」のものであったことに気づかされる。直線が出ておらず、ものによっては大きく歪んだ材を、かなり強い力をかけて矯正してゆく。ほとんど全身を使って体重を乗せ、力任せに釘を打ち込むことでなんとかこちらの意図に沿うように押さえ込む。例えばキャンパスなどは、こういう打ち込んだ力と画布の張力がかなりの緊張をもって均衡した構造物といえなくもない。「平面」は単に与えられているのではない。観念的な話ではなく、物理的に複数の相反する強度が調停された結果としてある。「平ら」であるということが、いかに人工的で操作的なものなのかは、こういう作業でいやでも実感する。