ささやかだけど大事なもの

土曜日は荻窪のshop & galleryゴンフレナで、同居人のグループ展を見る。

そのお店に置いてあった、田口桃代という人の、自家製本写真集の新作をみさせてもらったのだけど、これが凄い。インクジェットプリンタで出力した写真を、糸で綴って製本してる。全部で200ページくらいあったろうか?自家製本で綴り製本なんて、初めて見た。仕上はとても丁寧。

写真集で、造本を誉めてしまうというのはすじちがいと思われるかもしれないけど、この写真集は、造本も含めた、オブジェクトとしての存在感まで含めての作品だと思う。インクジェットの出力の、あの独特の質感が安っぽくなく、とても気持ち良く見えるよう紙にもレイアウトにも神経が行き届いていて、しかもちょっとした携帯型の辞書より厚い。それが丁寧に綴り製本(糸は鮮やかな黄色!)されているのを見ると、これはお金をかけてオフセット印刷してしまったら、たぶんこの写真集にある肝心なものが抜け落ちてしまうだろうと思われた。

写真自体は、子供をテーマにしたもので、町中でみられる子供達の姿を、遠くから、遠慮がちに撮っていて、その距離感がとても微笑ましい。時節柄、あまり安易に子供たちに接近できないということもあるのかもしれないが、この写真集の場合は、写真家独自の人との距離感が現れている感じがした。その対象へのはにかみ具合(なにしろ小さく写っている子供たちのほとんどが「後ろ姿」である)が、逆にこの人の子供たちへの愛情を感じさせて、ページをめくるたびに、なんだか気持ちがほどけていくような心持ちになる。

実は僕はこの人が以前に作った別の写真集を購入していて、それもインクジェットの出力を自家製本したものだった。その写真集は、1冊まるごと「団地の自分の部屋の窓から撮った風景」だけで構成されていて、基本的に似たような構図が微妙にずれながら、春夏秋冬、朝・昼・夕それぞれの表情を繊細に映し出しているというものだった。パソコンからインクジェットプリンタで出力された写真の汚らしさに慣れつつあった僕は、そのあまりに美しい「パソコン出力写真集」の風合いに一目惚れして、思わず注文してしまったのだが(受注生産で、発注してから手元に届くのに相応の時間がかかった)、今改めて新作とその時買った前作を並べて考えると、この人の作品の基礎的なテーマが、「身の回りのささやかな優しさ」みたいなところにあって、そのテーマが写真集を丁寧に自家製本するというところまで作家を連れていっている気がする。

ある意味倫理的な仕事をする作家なのだけれども、作品が物凄く地味で、幸か不幸かメディアにのっかってバーンと売れて、嫌が応でもオフセットの大量印刷をされてしまう恐れは(今の所)ない。ファンとしては嬉しい面もあるのだが、しかしこういう目立たないけど真摯な仕事をしている作家に光が当たらないというのは、やっぱりなんか間違ってると思う。

ああ、でも秘密にしておきたい。でもみんなに知らせたい。

info
田口桃代の写真集があるshop&gallery「ゴンフレナ」
住所:東京都杉並区荻窪5丁目17−7
JR中央線荻窪駅西口・地下鉄丸の内線荻窪駅より徒歩2分
すずらん通り左側、児童館となり
TEL :03-3392-2386 
営業時間・休館日は、事前にゴンフレナに問い合わせたほうがよさそう。