消費の暗い輝き

BASE GALLERYで洪浩(HONG HAO)展を見てきました。
中国人作家による、日本での初個展だそうです。スキャナの上に、中国国内で溢れている無数の商品(薬、食品、デジタルデバイス、衣料品、日用雑貨etc)などを一見無造作に敷き詰め、スキャンして、その画像を恐らくシルバープリントで出力して、アクリル板に挟み込み、展示してあります。かなりの大きさで、幅2m×高さ1m以上あります。

極めて美しい写真作品です。上で一見無造作に、と書きましたが、実際にはかなり慎重に配置していると考えられます。背景が真黒で、その背景に対して、意図的に要所要所に明度が低く彩度の高い色彩の商品をちりばめることによって、宝石が輝いているような効果を現出しています。そしてそれらの「美しい」商品群は、ポルノグラフィー、コピー商品、豚足など、どれも卑俗なものであり、この対比も考え尽くされたものだと思えます。

技術的に言っても、この作品は簡単に作れるものではないことが想像できます。一般の普及形スキャナで生成できる画像ではありません。拡大による画像の荒れもまったくないことから、ほぼ作品と同じ大きさのフラットベッド・スキャナを使用し、高解像度で読み込まれ、吟味された色調整の上出力されていると思えます。この設備と色管理をかんがえると、おそらく作家は、商業印刷専用の環境を長時間専有していると思えます。

こういった、繊細な作業によって生まれた作品達からは、現在凄まじい勢いで拡大していると言われる中国の消費文化への、愛憎入り交じった複雑な視線が感じ取れます。日本でも、またアメリカでも、こういった消費文化のガジェットを用いた作品というのはあるのですが、洪浩の作品には、そういった先行する消費社会から生まれた作品にはない「暗い輝き」があるのです。

現在、世界に残された最大の共産主義国家・中国における、市場経済の狂乱というモティーフだけでも、作家の視線や作品に、「暗さ」が宿るのは、ある意味必然なのかもしれませんが、この作品が、単なる体制批判に留まらない深さを持っているのは、上記の文章で述べた、その徹底的な仕上げの美しさのせいだと思います。

洪浩(HONG HAO)氏は、けして中国を外から見て、超越的な立場で批判しているわけではありません。また、溢れる消費物に溺れているわけでもありません。環境の破壊や凄まじい貧富の差を内包する共産主義国家の消費文化の、暗い輝き。その輝きを博物学者のような緻密な手付きで作品に定着してゆく様は、破綻の予感を感じながら、いまだに消費生活の安楽さの中に留まろうとする人々への、強烈な皮肉にもなっているように思えます。

info
洪 浩 展/Hong Hao Exhibition
BASE GALLERY
〜5月1日(土)まで 11:00 - 19:00 日曜祝日休廊
〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-4 近代ビル1F
地下鉄銀座線京橋駅 1番出口より徒歩1分
地下鉄浅草線宝町駅 4A番出口より徒歩1分
地図などはこちら http://www.basegallery.com/