野沢二郎展

那須・殻々工房で野沢二郎展「まだそこに留まっている光」を見て来ました。いやぁ、電車で行って正解。那須街道は車が動いてなくて、なんだか駐車場になってました。
我々はお店の居心地が良く長居したせいで殻々工房の工房長+厨房長+そのお友達に御迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい。

料理もお酒も期待どうり素敵でしたが、とりあえず絵の感想を書いておきます。キャンバスに油絵の具で描かれている絵画です。技術的な特長はid:eyck:20040804#p2で書きましたので、そちらをどうぞ。

カフェ&バールの店舗の壁面に、大作2点と小品10点がかけられています。照明は小品の一部に最小限度当てられているだけで、あとは建物に大きく開いた開口部からの自然光で作品を見ることになります。一般的なギャラリ−とは違った、入り込んで来る高原の風を感じながらの鑑賞でした。

ローアンバー(茶褐色)やグレ−の背景から、イエローの絵の具が、かなり強いタッチで浮かび上がって見えます。絵の具には艶があり、リンシードなどの植物油がかなり含まれているものと思えます。叩き付けられたようなマチエールから、一見かなりアクティブに描かれたように思われるかもしれませんが、実は絵の具の乾燥を見極めた上で、冷静に構築された絵画だと推測できます。

野沢二郎氏の絵画は、ここしばらく地になる明度の低い絵の具層の上に散る明るい絵の具が、拡散しようとしながら最終的なまとまりを失わず、図と地の分別がかろうじてつくという状態で、結果的にある空間が感じられるような画面となっていますが、今回の作品も、大筋ではその延長にあります。

が、しかし。そこにある種の変化の兆しがあるように思えました。

興味深いのは、小品の方ではっきりと「図」を描くようなものが目立ったことです。野沢二郎氏の絵に特徴的なスキージ(ゴムへら)を加工したもので描かれてはおらず、おそらくペインティングナイフで描かれたと思えるのですが、具象的なモノではないものの、輪郭のはっきりした形態が明解に描かれているものがいくつかありました。

大きい作品にも感じたのですが、全体に画面の中に「空間」を作り出すという意識が、作家の中で変化してきているように思えました。代わりに絵の具自体の存在感が前面に出て来て「空間を作り出す絵の具」から「絵の具そのもの」へと、作品の照準が移動しつつあるように感じます。

見ているだけで「触感」が手のひらの上に感じられるような、艶かしい艶を与えられた絵の具は、視覚的な空間を作るに留まらず、身体全体に作用する力を強めていっていると思えました。今後、どんな展開をするのか?秋の銀座での個展も楽しみにしたいと思っています。

●野沢二郎展「まだそこに留まっている光」

この、那須の殻々工房での展示は、工房長いわく「紅葉の頃まではやってる」とのことでした。10月くらいまでか?