売れたか/売れなかったか?(3)

文脈の未形成、というのはBunkamuraも気づいているかもしれません。要は、今までのミュージアムでの企画が「LANDING」展に来て欲しい''客層''を呼び込んで来なかった、ということです。


くだくだしく書くのもどうかと思うのですが、Bunkamuraザ・ミュージアムはこの15年間、原則的にコンサバティブな大人に企画をぶつけてきている印象があります。過去行われてきたのは、MOMAとかメトロポリタンとかの海外の有名美術館のコレクションが中心で、基本的に印象派以降のモダンアートがメインです。ま、名画ですね。あとは、写真のエルスケンやエッシャー展、渋いところでは棟方志功とか。


いずれにせよ、今回「LANDING」展に出しているような、国内の若手のコンテンポラリーの作家に興味を持つような層には、あんまり「引き」がない美術館なのです(これはこれでどうかと思うし、僕は十分勉強させてもらった展覧会もあったのですが)。これは当たり前なんで、今までBunkamuraザ・ミュージアムが狙って来た層というのは、東急デパート本体でお買い物してくれそうな人を集めようとしていたわけです。もう、何から何までマーケティングです。いや、経営的には正しいですし、だからこそ15年もって来たんですが。


そんな中で「LANDING」展をいきなりやって、比較的若い層を集めて、しかも商売として成立させよう、なんてのはムリがあるわけです。ひと工夫いるなぁ、なんて話が会議で出たんじゃないでしょうか。その会議の結果が、浜崎あゆみなんじゃないかと想像します。


Bunkamuraザ・ミュージアムで行われている「グッケンハイム美術館展」に「主題歌(!)」がついているの、知ってます?TVCMまで流れてます。聞いた人はびっくりしたでしょう。これ歌ってるのが浜崎あゆみ嬢です。なんかオープニングにも来てましたね、あゆ。お気に入りは、ピカソだったかな?各メディアも報じてました。ウォホールと言わないあたり、配慮が行き届いています(ウォホールはグッケンハイムのコレクションの中では、中核的なものではないんです)。


美術展でTVCMとかタイアップやるのは、今までも何回かあったことです。大きな新聞社やテレビ局がお金だして、上野の都美術館あたりで名画展やるときに、こういうのはあります。しかし、Bunkamuraが毎回毎回こんなことやってきたわけじゃぁありません。よりによって、あゆですよ。流石に高いでしょう。一体、いくらしたんでしょうか。


んが、唐突という以上に、変です。「グッケンハイム美術館展」というものに興味を持つのは、今までのBunkamuraマーケティングの想定なら「大人」です。しかし、浜崎あゆみに反応するのは、もっと若い層です。今までと違う客層にミュージアムに来て欲しかったのでしょうか?それもあるでしょう。しかし、実は、どっか「あゆに釣られてきた人が、LANDING展に引っ掛からないかなー」なんて思惑は、なかったんでしょうか。


マーケティングの効率だけ考えるなら、LANDING展の主題歌を浜崎あゆみにするのが、Bunkamuraらしい手だったと言えます。しかし、規模が小さく知名度の低い作家の企画に、そんな予算もつかないしエーベックスだって納得しない。ミュージアム本体なら、ちぐはぐだけど可能な組合せ。うーん、でもまぁ出来そうだから、やってみようか!てなノリじゃないでしょうか。


すっごい「会社が会議で決めた」っぽい構図です。100%僕の想像ですが、あながち大はずれでもない気がします。
ま、事情を知らない素人の邪推はこの辺にしましょう。とにかく結果的に見えてくるのは、Bunkamuraの従来のマーケティングでは「LANDING」展で「収益」を出す文脈は作れてこなかったし、それは多少の突発的な工夫ではフォローがきかない、ということです。


ここからは提案です。Bunkamuraザ・ミュージアムで、国内の若手のコンテンポラリーの作家を押し出す企画展をしていきませんか。1年に1度、期間も短くていいです。1月くらいで十分です。で、ここは完全に赤字覚悟で、もうめっちゃマジに、甘くないコンセプトを打ち立てて、先鋭な作品を作っている作家に十分なスペースを与えてみませんか。いや、国内の作家に限ることはないかもしれません。海外の若手作家を紹介するのもいいんじゃないでしょうか。


今回LANDING展を開いた1Fのギャラリーが、今までコンスタントに黒字を出していたとも思えません。ミュージアムが無理なら、ここでもいいです。ただし「中身」に関しては、妥協抜きです。先に書きましたが、そのほうが余程「新しい市場」を開拓する可能性が高いと僕は思います。とにかく、一度「消費者」とは違う観点をもつことが、今までにない世界への扉だと思えます。


もう少し言うなら、どこかで採算を度外視しないと、「文化」は育たない気がします。もちろん、長期的な視点で収益のバランスを考えるのは大事です。しかし、そのためにはある程度の持久戦を覚悟した方が、良い結果を生み出すのではないでしょうか。もしBunkamuraが、今まで国内になかったタイプの現代美術市場を形成することができたら、そのメリットはすごいものがあると思います。


50年後、海外の著明な美術館が「Bunkamuraコレクション」を貸してくれと頭を下げに来る。そんなところまで考えるのは行き過ぎなのでしょう。しかし、仮にも文化の村たらんとし、単なる「デパート」ではないものを指向するのであれば、今よりももう少し射程距離の長い矢を放つ必要があるように思います。とりあえず次の15年を生き残るには、1年に1回、期間は短くても、濃度の高い冒険をしてみてはどうでしょう。

とまぁ、長々と「もうちっと無名の若手にメセナっぽいことしてくれい」というお話でした。おしまい。