マン・レイ展を見て来ました。埼玉県立近代美術館。軽くレビュー。


いやこの人は写真家なんだなーと思いました。マン・レイと言えばシュルレアリストダダイスト、という感じですが(個人的には、どちらか?と言えばシュルレアリストとしての資質が強いとおもいます)、カメラマンとして撮ったポートレートなんかが素晴らしい。若きダリを捉えたショットは強烈です。


一番そのことがはっきり出ているのはオブジェです。今回の展覧会では、オブジェとそれを本人が撮った写真が一緒にならんでいますが、オブジェそれ自体よりも、それを写真にしたもののほうが優れています。その多くがレンブラント光線を当てられて、強いコントラストで撮影されていますが、くっきりと立ち上がったその存在は、実際のオブジェよりも明解に見えるのです。


もちろん、フォトグラムやソラリゼ−ションといった技法的革新が行われた背景には、シュルレアリストとしての問題意識があるわけですから、単純に彼を職業写真家としてのみ扱うのはナンセンスになるのでしょう。マン・レイの、シュルレアリストとしての意識と、カメラマンとしての技術が最も優雅に融合したのは、詩人のエリュアールとの合作の写真詩集「Facile」だと思います。エリュアールの愛を扱った詩に、エリュアール夫人のヌードをマン・レイが撮った写真で構成されているのですが、このグラフィックワ−クが本当に美しい。そういう意味では、優秀なデザイナーでもあったかもしれません。


キキの背中にペイントしてバイオリンに見立てた、有名な「アングルのバイオリン」も、「ガラスの涙」も、カザティ侯爵夫人を撮影した「メドウサの肖像」も、広範に広まる印刷というメディア上で最も効果的にビジュアル的インパクトを与える作品です。様々な様式の革新が行われながら、なお「絵画」や「彫刻」といったジャンルが「価値」としてあった20世紀初頭のヨーロッパ・アメリカにおいて、自らをあくまで画家として規定したいと思っていたというマン・レイですが、いまや他にない「マン・レイ フォトグラファー」という肩書き?を作ってもいい気がします。


とにかく、女性のヌード写真を見て心底感動したのは久しぶりです。


マン・レイ