さて、ユベルマンの本について書いたわけですが、正直あんまり僕には向いてないエントリですな。本関連で違う話をしてみます。時たま大型書店で美術関連のコーナーを見てた人で、以下の4冊に目を止めた方はいらっしゃるでしょうか。


●デューブ「芸術の名において」

ハイデガー「芸術作品の根源」

ユベルマン「ヴィーナスを開く」

グリーンバーググリーンバーグ批評選集」


amazonでなく紀伊國屋書店のペ−ジで出してみました。何か気づくことあります?本屋さんで見ていた人は分かるかもしれません。一言で言うと、本が似てるんです。

  1. 全部大きさがB6
  2. ページ数は「芸術の名において」230P、「芸術作品の根源」225P、「ヴィーナスを開く」194P、「グリーンバーグ批評選集」238P
  3. 装丁はほぼ無地に明朝体で書名(「芸術作品の根源」は帯状にゴッホの絵、「ヴィーナスを開く」はワンポイント的に花)。
  4. 価格は「芸術の名において」¥2730、「芸術作品の根源」¥2310、「ヴィーナスを開く」¥2940、「グリーンバーグ批評選集」¥2940
  5. 発刊は「芸術の名において」2002/1/5、「芸術作品の根源」2002/5/16、「ヴィーナスを開く」2002/7/10、「グリーンバーグ批評選集」2005/4/15。


サイズは全てジャストで一致してます。見た目(装丁)も、「芸術作品の根源」のゴッホの絵が比較的目立つものの「ムード」は似てます。ページ数は「ヴィーナスを開く」が194Pとやや少なめ、あとは綺麗に230P前後。価格は「芸術作品の根源」がやや安く2310円、あとは「芸術の名において」2710円と残り2冊が2940円。発刊時期は「グリーンバーグ批評選集」が極端に遅く今年のもので、あと3冊は2002年の1月、5月、7月と集中してます。ちなみに4冊とも出版社はバラバラです。


肝心の中身ですが、デュシャンを扱うデューブがおもいっきりグリーンバーグの影響下にあるのははっきりしていて、この2冊はダイレクトに繋がっています(中身の評価は別ですよ)。で、ボッティチェルリをヴァーグブルグ/サド/バタイユに繋げるユベルマンはそこから大きく離れている気がしますが、文脈的には「反グリーンバーグ」と言うことが可能かもしれません。ハイデガーも含めて、ちょっと乱暴に「美術におけるモダニズムを巡る4冊」と、ここでは言ってみましょう。


なんか蓮實重彦元総長の「絶対文芸時評宣言」じみてきました。どこかの誰かさんが「貧乏人は蓮實のマネをするな」と言っていた声が聞こえてきますから、これ以上の、例えば価格をページ数で割った「ページ単価」を出して、いったいどの本がお買得なのか、なんて事を考えるのは止めておきましょう。ただし、この段階で既にある種の「貧しさ」が否応なく浮上してしまいつつあります。要は、こういった本は、この程度の形態で出さざるを得ないし、そこに収まらない本はどんなに重要なものであれ訳出されない、あるいは復刊もされないっていうことです。もっと正確にいうなら、少なくともこの体裁でなら出版しうると考えられたのが、2002年の1時期だったということです*1


誤解を避けたいのですが、僕はこの4つの出版社が横一列に「あるフォーマット」で本を出している事に文句をつけたいのではありません。問題の根はもっと深いと思います。例えば若干ショッキングな内容をしていて、多少は「売れる」事を期待されたのではないかと想像するユベルマンの「ヴィーナスを開く」でさえ、出版されてから2年たってようやく2刷りが出たような状態です。ハイデガー「芸術作品の根源」にいたっては、今だ初版が本屋に並んでいて、恐らくこれが売り切れたら「終了」です。先月発刊の「グリーンバーグ批評選集」は、なにかまるで一部で盛り上がったような印象がありますが、果たして2刷りは出るんでしょうか?そして、2年3年たった時に新刊で入手可能なんでしょうか?


こういう「貧しさ」から逃れるには、ぶっちゃけ英語をスラスラ読めなくてはいけません。じゃぁ、英語を学ばない怠け者はぐすぐす泣いていろや、という話しで終わるんでしょうか。僕は、それはそれでちょっと違う、と思います。具体的な対案がでてこないので、ほとんど「独り言」にしかならないのですが、なによりもまずこの状況を変化させるには、「我々は知的に貧しいのだ」ということを、心底知ることから始めるべきなのだと思います。貧しさに気づかない、というのは貧しさそのものより危険、な気がします。


なんだか身の丈に余る話になってきたので止めますが、とりあえず、「美術の本」に関しては、いつまでもあると思っていてはいけない、という事だけは確かです。これは!と思った本があったら即刻買っておくべきです。いっぺん見失ったら、おおよそ再会はできないと思っていいんじゃないでしょうか。

*1:グリーンバーグ批評選集」は良く出せたなぁ