ゴダール「アワーミュージック」について。断片的にしか書けない。

  • 表象、表現、伝達、についての諸要素。映画、映像、本、(多数の)言葉、身ぶり、絵画、手紙、記録、再建、授業、通訳。
  • 移動する。空港、飛行機、路面電車、車、自転車、徒歩。
  • 寒さ。雪、曇天、マフラー、コート。
  • コラージュ。映像の引用、映像と言葉(過去のゴタールの映画の台詞)の重ね合わせ。歴史の重なり。イメージの重ね合わせ(赤い鞄をもったオルガの血/死は赤い花の中の白い花に重なるetc.)。
  • 逆光で顔/象が見えない。その中で語られる言葉。
  • インタビューを聞き取る。しかし、語るものは相手を見ずにただ語る。
  • 映画(監督)は、そのこと(見ることができない)ことを見る。「見られない」「見ていない」というのは、能力とか気付きの問題ではない。どんなに意識しようと、「見ていない」ものは見ることができない。それは、例えば登場する映画監督の条件だ。見てもらえない者が、どのようにしようと決して「見てもらえない」条件の中にあるように。
  • 敗者もやはり「こうすれば勝者になる」といった相対性の中にない。敗者というのはある構造だ。パレスチナにも死者がいるように、イスラエルにも死者がいる。勝者=加害者として扱われる死者。敗者=被害者として扱われる死者。どちらも死んだ者だ。死んだ者を勝者と敗者にわけるのは、表現/表象だ。
  • 一瞬クールベの絵が写った?(画集の絵っぽい)復元される城のシーン。
  • 大使館のパーティーでふと踊り始める年のいった男女。その「踊り始め」のスムーズさ。疲労と無気力とセックス。
  • 濡れている。雨にうたれた道路、雪に被われた地面。水。川、森、あるいはシャンパン(ワイン?)。
  • 「表象不可能性」などというような事は問題になっていない。表象を前提にしてその「不可能性」が語られるが、それは前提を無視している。映画は映画に写っているものだけが問題なのであり、その外に「匂わされる真実」などは存在しない。
  • 「我らの音楽」とは「我らの条件」と読める。
  • 居場所の問題。フランスからイスラエルへ、そしてまたフランスへ戻った翻訳者。救われた祖父と母の場所から救った大使の元へおもむき、そこで大使に逃げられる。
  • 天国を描くこと。絵画において、地獄や煉獄(現実)は詳細に、ち密に、濃度をもって描かれるが、天国は極めて単純にしか描かれることはない(洋の東西を問わず)。多様な地獄のあり方(ボッシュを見よ)に比べて、天国のイメージは固定的だ。川があり、緑があり、歌が流れ、美しい男女がいる。それをこの映画も反復しているが、ビーチバレーと兵士(アメリカを想起させる)は皮肉か。
  • 人は「良く知っていることはたくさん書ける」(テレビ番組での中沢けいの発言)。対して、知らないことは書くことができない。人は地獄や煉獄はよく知っているが、天国の事は知らない。
  • 人は、知っている場所に帰りたがる(それがいかに悲惨なものであっても)。故に天国はやってこず、地獄が反復される。
  • 反復=コピー。劣化していくコピー。コピーだからこそ劣悪であり、劣悪だからこそ反復される。
  • 聞かれていない言葉(映画監督の語りは雑音に包まれている)。聞かれていないと思いながら語る映画監督。しかし、決定的に聞いている者がいる。
  • 見られない者(オルガ)から発信されたものは、誰にも受け止められない(死んでも)。
  • 青のバックに黒い木とカラス。
  • 黄色、緑、赤。濃度が濃いというか、コクがあるというか、彩度が低く物質感のある色。東欧の色?とりあえず赤。
  • デジタルカメラで映画を救うことは可能か?という問いに答えない映画監督。
  • 終わった後の風景。その中でも、何かが胎動している。しかし、それは知られることはない。知られたときは終わっている。だから光景とは常に終わった光景。
  • 断面。建築物の断面(戦争で壊れた建物)、人の断面(戦争で死んだ死体)。
  • 夜。くり返された歩くシーン。町中に光るネオンや行き交う車の向こうの歩道。1度目より2度目の方がやや引かれた位置にカメラがある。
  • 暗い中に四角く開いたドア。そこに立つ人のシルエット。シンメトリ。あるいは暗い大使館の窓と光る外、そこに浮かぶ大使のシルエット。
  • 「真に哲学的な問題とは自殺だけ(カミュ)」。自殺の手段としてのテロ。自殺の手段としての戦争。
  • 音。画面と乖離する音楽。背景音がなかったり、急に浮かび上がったり。
  • 引用映像の速度を調整する意図がわからない。
  • 見られないものが、なお「見られよう」として起こすテロ。しかし、「見ていない」側というのは、動かせない条件の元で「見ることができない」のだから、いかにテロに訴えても、何も可視化しない。
  • 天国に行ったオルガは、しかしそこから煉獄(現実)を見ることはできない。煉獄から天国が見えないのと同じように。
  • 映画についての映画。見る、見ない、見られない、見返す、見えない、についての映画。
  • この映画で一番美しいのは、最後のスタッフロールかもしれない(ロールしないけど)。