国立西洋美術館で「古代ローマ帝国の遺産」展。平日の午前中にのんびりと見ようと思って行ったら開館直前の西洋美術館前には既に10人くらい並んでいた。私は門が開くまでぶらぶらしようと文化会館のわき、正岡子規記念球場の前を通って摺鉢山古墳に登り(おじさんが数名集まっていた)、彰義隊墓所まで行って引き返してきて、開場が始まった美術館に入ったら結構な人数が既にいて、びっくりした。共和制から帝政に移行したローマの彫刻と工芸品、およびポンペイの壁画や出土品という2都市の文物を展示しつつローマ帝国の都市建設、社会機構の整備、市民の生活を見せるという、どちらかといえば博物館的な教育コンテンツだ。


ポンペイの室内壁画とモザイクがはがされて展示されていたのが一番素晴らしいと思えた。ことに壁画「庭園の風景」はとても良かった。国内でポンペイの出土品の展覧会はコンスタントに行われると思うのだけれど、私が見た範囲で印象的だったのは横浜美術館で1997年に行われた「ポンペイの壁画」展だった。今回の壁画の展示は大きさや点数的には横浜の展示にかなわないけれども、質としては十分匹敵するものだったのではないか(いや10年前の展覧会が比較検討できるほど明瞭に思い出せるわけではないのだけれど)。私がローマ美術にもつ興味の中で、ちょっとこだわっているのが彫刻に比べて必ずしも十分に成熟したとは言えない絵画表現の問題だ。今までに何度か目にした範囲で言えば、その弱点は空間表現とかよりは色彩の展開にあったように思う。


もちろん紀元前後の古いものを見ているのだから、保存状態なども勘案しなければならないのだろうけれども、ローマ壁画(フレスコ)はおおよそ絵の具を引きずりすぎている。その結果か、全体に色彩に冴えがないな、と思う事が多いのだけれど、「庭園の風景」は色彩が鮮やかで濃度が高く、よくこんなにも保存されていたな、と感動してしまう。ことにそのブルーグレーや植物の緑の新鮮さは驚くべきだ。細やかに描かれている鳥の描写などもチャーミングだ。そして、その上で思うのだけれども、やはり古代ローマにおいて、平面表現というのはあくまで装飾の範囲を出ていなかったのだと思う。これは彫刻を見ていればはっきりしていて、序盤の皇帝座像とかはモニュメントとして単なる「飾り」の域を越えた自立性を獲得している。都市と彫刻こそ「帝国」という何事かを表象するのにふさわしいメディアだったのだろう。そして、そこにはもちろんエジプトの備蓄があったのだろう。


展示終盤のソンマ・ヴェスヴィアーナ遺跡で発掘されたディオニュソス像は確かに良い彫像で、こういったものを地中から掘り起こす仕事というのも凄いなと思う。ギリシアのブロンズ像として特別出品されているミネルウァ像も興味深いけれども、私としては2005年に東京国立博物館で見た「踊るサティロス」の方が数段インパクトがあった。最近こういった展覧会ではCGやデジタル映像加工技術を利用した映像解説がよくあるけれども、この展覧会での「庭園の風景」とモザイクを本来の遺構に映像的に貼付けて当時の状況を推測している映像、あるいはローマ都市の構造を手際よく見せる会場入口前の映像もはけっこう見応えがあった(やはり2005年に東博であった唐招提寺展での金堂復元映像も良く出来ていたのを思い出す)。


■「古代ローマ帝国の遺産」展