森美術館完全?レビュー#6

六本木クロッシング」展・全作品コメント、その4。

今日は雨の中、MOTアニュアルとVOCA展の他に、損保ジャパン美術財団選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index.html)を見てきたんですが、なんと選抜奨励展の第1室がけっこう面白く、イマイチだったVOCA展より好印象でした。意外。ま、第2室以降は見事に「墓場」でしたけどね。
詳細は後日。とりあえず「六本木クロッシング」展・全作品コメントを続けます。


31. 八谷和彦
ポストペットを開発したことで有名な「発明系アーティスト」。今回は宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」に出てくるジェットグライダー、メーヴェを実際に製作し、飛ばそうという企画の途中経過の報告です。
この人は前述のヤノベケンジと並べられることが多く、今回の主題もアニメに出てくるマシンがモチーフということで、ヤノベ氏と同じように幼児退行的に見られることがあるのかもしれません。実際、イメージ写真に風の谷のナウシカの主人公のコスプレをした女性を立たせたりするところなど、幼児的傾向は強いと言えるでしょう。
しかし、決定的にヤノベ氏と八谷和彦氏が違うのは、ヤノベ氏が「技術のイメージ」で遊んでいるのに対して、八谷和彦氏は「技術そのものに向かい合っている」という点です。50kg未満の女性を載せて実際に飛行可能なパーソナル・ジェットグライダーを作るという現実的な目標をたて、そこに具体的な技術を積み重ねながら到達しようとする姿勢は、テーマのバカバカしさを逆から照射して、とりあえず「笑える」プログラムとなっています。
間違っても「大人」の作品だとは思いませんが、ヤノベ氏のようにひたすら個人的郷愁を世代の共有物にしてみんなで一体感を味わおうとする作家と同じ目でみてしまうのは、ちょっと不当だとおもいます。

32. 小杉武久
現代音楽家による作品。粒度の違う4つの粉を入れたケースから、幽かな音と光が発せられています。
極端に地味。「六本木クロッシング」における地味大賞をあげてもいいでしょう。とにかく大声をあげることにやっきになっている他の作品に対してこの作品がとった手段は「徹底的に小さな声で語ること」です。個人的に、この戦略は好きでした。喧噪の会場も半ばをすぎ、ほとんどの観客が感覚を広げるよりはあからさまに目も耳もふさぎはじめたこの地点で、改めて知覚を開かなければいけない作品を置くというのは、一種のユーモアとして成立していると思います。ただし、そもそも存在に気付かれないという恐れも大きい気がしました。わかんない人にはわかんなくても良い、ということなんでしょうか。

33. ポル・マロ
数カ月間、六本木を歩いて得たイメージを元に組まれた「コンセプト・インスタレーション」なんだそうです。致命的なのは、どこが「六本木を歩いて得たイメージ」なのかが、まったくわからないところです。僕がバカなだけですか。すいません。液晶モニタの土台に、大昔のブラザーのワープロが使われていて、ここにだけ極端に反応している男性がいたのが可笑しかったです。でもあのワープロに、どんな意味があるんだろう。六本木の道ばたで拾ったんでしょうか。

34. 笹口数
部屋に入ると、宙に黒い玉がたくさん「浮かんで」いてびっくり。よく見ると細いナイロン糸で吊られているのでした。でも、ちょっと目を細めれば、やっぱりなんの支えもなく黒い玉が浮いているように見えて、とても不思議な感覚が味わえます。
実は現代美術のインスタレーションではたまに見かける手なんですが、この作品のユニークさは、そのたくさんの黒い玉が、「人の形」に見えるように空間中にマッピングされているところです。3次元のダマシ絵みたいというか、たのしいです。座っている人あり、寝ている人あり。設置の手間を考えると泣けてきます。

35. 中川正博
ファッションブランドを主宰する作家が考えた、「皇居の松の木のための服」。絵画調のイメージ図とともに、実作の「松の木のための服」が置かれています。一見気味わるいですが、昨今町中でよく見かける「服を着させられた犬」というのも、同じくらい気味が悪いはずじゃないでしょうか。でも、そっちは妙に目が慣れてしまっていて、行われていることのグロテクスさに気付きません。
更にいえば、似合わない服を着ている人も、このファッションデザイナーには「服を着た松」くらい気持ち悪いものなのでしょう。
「着るべきでない服を、着るべきでない者が着ていることの気味悪さ」をこうも大胆に正面切って提出するファッションデザイナーの悪意に、観客のどのくらいの人数が気付くでしょう。

36. 法貴信也
小さめの紙に描かれたドローイングが、壁面に貼ってあります。ジャーナリスティックな水準では「注目の画家」として扱われているのですから、ある程度の大きさの作品でどーんとその力を見せてほしいという気もするんですが、もしかすると、そういうジャーナリスティックな視線に嫌気がさしてる可能性もありますね。ある種のかわしというか。
様々な風景が、大小さまざまの円形の空白で遮られている絵で注目された作家さんです。繊細なドローイングをする画家で、今回の作品ではそのドローイングの力がより明確に見えると思います。

37. 秋山さやか
自分の歩いた軌跡を、地図上に刺繍していく作品を作り続けている人です。今回の作品のために、永田町に2ヶ月滞在し、その期間の移動を、薄い生地にプリントされた地図に刺繍で記しています。さらにその生地で大きな蚊屋のような部屋を作って、中にやはり地図がプリントされた枕等も置いて展示しています。
僕はこの人の作品を見るのは2回目なんですが、より表現が洗練されてきた気がします。おおきな蚊屋は、秋山さやかという作家の日常感覚を上手く提示する手段としてとてもフィットしていて、上手いなぁと思いました。以前オペラシティ・ギャラリー「わたしの家はあなたの家」展で展示されていたスゥ・ドーホーの作品を思い出しました。

5. 木村由紀
最初の方で、Power BookG4による展示をしていた木村由紀氏が、またここで展示しています。Power Mac G5数台+シネマ・ディスプレイに、森林の木の幹の表面を、ひたすら上へ上へカメラを移動させながら撮った映像が映し出されています。
ぶっちゃけG5の展示にしかなってない気がするのは気のせいですか。映像作品はスクリーンセイバーにしか見えません。

38. 篠田太郎
ラジコンヘリコプターを操作して、人形を救出するという作品。というか、作品云々言う前に、これを操作している人がいません。「勝手にいじるな、係員に相談しろ」みたいな文句が書かれている上に、この人数がいる部屋でラジコンヘリコプターを操作するのは現実的にかなり勇気がいります。いざやろうとしても、万一にも事故を起こすまいとする係員にほとんど主導権を握られ、面白くもなんともない体験になることが容易に想像されて、これっぽっちもやりたくなりません。
これほどあからさまに「大失敗」してる作品というのも珍しく、違う意味で見物です。

39. 畠山直哉
ドイツの閉鎖された炭坑施設の爆破解体の瞬間を撮影した写真を、4枚並べて展示しています。社会性とか歴史とか、いろいろなメッセージを含んだ作品なのですが、実際にはビジュアルの「カッコよさ」ばかり見られてしまいそうです。
そういう意味では、もうすこし「作品理解の手がかり」があってもいい気がします。パンフやカタログは皆が見るわけではないですから、タイトルなどがもう少し「親切」でもいいんじゃないでしょうか。

あと17かー。なんとか終われそうな気がします。