森美術館完全?レビュー#7

六本木クロッシング」展・全作品コメント、その5。

いかりや長介さんが亡くなってしまいました。

●40. 中西夏之
かつてハイレッドセンターなどで日本の美術シーンをリードした中西夏之が、「六本木ヒルズ52Fから見下ろされた視線」を元に、絵画・インスタレーション・パフォーマンスといったジャンルを横断して作った作品。

年とって耄碌してパワーが減衰したのを中途半端な思考もどきで誤魔化してるだけの作品、などという暴言を吐きたくなるくらい、新作のインスタレーションは弛緩してます。相応の緊張感をもった旧作の絵画が一緒に並んでいるということは、作家もキュレーターも内心不安だったんじゃないですか。なら出すな。

もっとも、持つべき物は優秀な弟子です。中西氏が教官を勤めていた芸大出身の山口晃氏が、今東京都現代美術館のアニュアル展に出品している作品で、中西夏之氏のほぼ同なじような作品の公開制作の模様を、思いっきり揶揄しています。驚異的な画力で描かれた絵巻物風作品で「中西先生登場」「ようやく一筆」等、巨匠?のゆるいパフォーマンスもどきをレポしていて、大笑いです。

●8. 深澤直人
会場の序盤で「±0」シリーズのプロダクトを出していた深澤直人氏の別作。「非常口」のサインが、ごく普通に設置されてますが、よく見ると外に駆け出そうとしている「あの」キャラが動き出したりしているアニメになってます。上手いわ笑えるわコジャレているわで、このデザイナー1人に「美術家」達は敗北しちゃってるんじゃないかと思えます。六本木クロッシングが仕掛けた「異種格闘技戦」の成果の1つでしょう。

●41. 志水児玉
暗い円形の部屋の壁面に、レーザー光線によって描かれる、人には聞こえないサイン波の軌跡。
お勧めの見方は、目を細めて、赤いレーザー光を焦点をぼかして見ることです。夢の中のUFOみたいな、幻想的な光景が見られて軽くトリップできます。
現代美術なんて言われると、一生懸命「作者の意図や思想」なんてものを追っかけて、それで分かったつもりになったり、逆に「わからねぇー」と言ってサジを投げてしまいがちですが、そんなもん放り投げてこっちで勝手に楽しんでしまう(操作してしまう)という積極的なアプローチも試みてみてはどうでしょう。「分からない小説はね、それはつまらない小説なんだ。怖がらなくていい」by太宰治

●42. ルパート・キャリー+高橋知子
イギリス人にしか受賞資格がないターナー賞にノミネートされてしまった経歴をもつ高橋知子によるハプニング「パレード無しのシュレッド紙吹雪パレード」の記録映像。
正直映像を見てるだけでは面白さはわかりづらいでしょう。美術におけるハプニングというのは、とにかく「現場」にいなければ体験できないからこそ意味があるわけで。でも、この記事(http://www.goodpic.com/mt/asa/archives/000344.html)を見れば、多少はイメージが膨らむのではないでしょうか。

そんなことは一言も触れられてませんが、僕はこの作品は9.11アメリ同時多発テロとそれに続く一連の軍事行動にリンクされた作品だと思います。六本木クロッシング展では、奇妙なくらいあのテロやアフガン侵攻・イラク紛争に言及した作品がありません。もちろんイージーにPC(ポリティカル・コレクトネス=政治的正当性)を謳った表現はなされるべきではありませんが、現在の状況の中で、六本木ヒルズという日本の経済的象徴となりつつある超高層ビルの53Fにいる人が、この作品を見て世界貿易センタービルに突っ込んだ二機の旅客機と「戦争」をイメージしない方が不自然だと思います。

●43. 東京ピクニッククラブ
東京ピクニッククラブはピクニック誕生200年を記念して、ピクニシャンである建築家の太田浩史とピクニジェンヌの都市計画者・伊藤香織を中心にピクニビリティの追求を目的に結成された組織、だそうです。
持ち運び可能な芝生が開発され、その芝生ユニットの上に「集合時刻を決めず、三々五々あつまるべし。帰る人も引き止めてはいけない」とか「ゴミは持ちかえろう」「キャンプや野外バーベキューではない。簡易な食事を持ち寄ろう」といった「ピクニックの心得」が掲げられています。JTのたばこの広告を彷佛とさせますが、とりあえず「ピクニジェンヌ」「ピクニビリティ」という単語は笑えます。

しかし、持ち運び可能な芝生ユニットを開発して屋内に設置するのは、ピクニビリティに反しないのでしょうか。ピクニックというのはあくまで都市に隣接した「現実の野外」に、自らの足で出向いて天候に左右されながら決行すべきものであり、建物内部にまがい物の芝生を置いて空調の中で楽しんだり、多少の距離を億劫に感じて郊外まで移動せず、近場で持ち運び可能な芝生ユニットで疑似ピクニックを行うというのは、明らかにピクニックの本質に反した堕落的行動です。この展示によってプチブル的反動集団と化した東京ピクニッククラブは、真のピクニック原理主義者によって処断され、粛清されるべきです。さようなら東京ピクニッククラブ。

●44. 渡辺睦子
イントレ(工事現場用の足場)を組んで、その中に六本木ヒルズ周辺のコミュニティを取材した過程で集められたモノや記録ビデオが展示されています。美術作品としての質はともかく、社会的に意味のある内容です。六本木ヒルズができる前は、この地域は意外なまでに雑然とした居住地で、森ビル資本による大規模な再開発の結果、失われてしまった風景や生活があり、今残されている、相応の歴史をもったコミュニティも六本木ヒルズによって否応なく影響を受けているという現実があります。

そういった現実への視線を、声高に森ビルに対する攻撃的口調ではなく、あくまでもの静かに語る作品によってこの場所で表現することは、意義深いと思えます。過激な展示にしてしまえば、当然森ビル資本からの介入を受けるでしょうから(あるいは介入を受けた結果の展示なのか?)、こういった柔らかな抵抗の仕草は、逆に作者の意志の強さを示していると思います。

イントレの上部に上がり、どこからか持ち込まれた「ちゃぶ台」を前にしてそこにある大きな窓から見る六本木の風景。展望台からとは違ったものが見えるはずです。