eco&ego展 ピックアップレビュー(1)

埼玉県川口市で開催中のeco&ego展を見てきました。
作品内容、コンセプト、運営方法など、様々な面で意欲的な展覧会です。単純に現代美術展として、MOTアニュアルやVOCA展などより数段面白いものになっています。本展の開催期間以前からプレ・イベントや関連企画が展開されており、期間中も多くのパフォーマンスが行われるなど、僕個人ではとうてい全体を把握できない規模ですので、今回はピックアップレビューとして、個人的に気になった作品と、全体の印象を書いてみたいと思います。


●eco&ego展・全体の印象
まず、展覧会の詳しい内容は、ホームページを見てください。
http://www.eco-ego.net/index.html

タイトルを見ての通り、環境と人の関係を扱った展覧会です。美術館ではなく、川口市内各所の古い民家や工場跡地、リサイクルセンターを利用した、広域美術イベントとなっています。参加作家は以下。
池田一/石川雷太/伊丹裕/兼古昭彦/川上香織/高野浩子/小瀬村真美/新生呉羽/原仲裕三/ヒグマ春夫/広田美穂/丸山常生/丸山芳子/山岡佐紀子


はっきりしたコンセプトを打ち出しながら、作家・作品の内容は多種多様です。十分なキャリアと海外での活動歴をもつヒグマ春夫氏・丸山常生氏、先鋭な社会派作品で知られる石川雷太氏、コンピュータと映像を駆使したメディア・アートを作る兼古昭彦氏といった作家がいる一方、古典的な彫刻を刻む高野浩子氏、今回ローカルなフィールドワークを作品の基盤とした広田美穂氏、1975年生まれと若手ながら注目を集めている小瀬村真美氏など、美術館主導のキュレーションでは期待できないラインナップです。


インスタレーションとパフォーマンスが多いのですが、高野・川上両氏などは普段の製作の場であるアトリエ(ART FACTORY内)を公開していて、このイベントでなければ経験する機会がなかなかない形式のものです。


川口市内の商店街・リサイクルセンター・工場跡・神社周辺の住宅地と、4つのポイントを中心に沢山の会場が設置されていて、かつて鋳物産業で栄えた川口の町中を巡ることも、このイベントの魅力と言えるでしょう。特に古い民家と工場跡地は、すごくカッコイイです。デジカメ片手に会場を回るのもいいんじゃないでしょうか。


個人的に興味深いと思えたポイントは2つあります。

  • コンセプトの深さ
  • 行政や企業の広告ベースではない、ボトムアップ式の運営


1.コンセプトの深さ
こういった企画で環境問題を扱う際よく見かけるのは、安易な自然賛美を唱った単純なキャッチフレーズです。しかし、この展覧会のコンセプトは、そのような安易さを超えています。eco&ego展ホームページに、以下の記載があります。

(前略)環境問題は、単純に「良い/悪い」を言い立てることは不可能です。人間が生きるために必然的に行わなければならない行為や欲望 ( EGO )と、地球生態系の一部としての人間のあり方( ECO )。この相反することを、社会的責任を持った生物としていかに折り合いを付けていくかが、今まさに問われています。

極めて現実的でリアリティのある問題提起です。例えば温暖化の問題は、極端な環境保護を叫び、一方的に経済活動を止めてしまった場合、大気温度の上昇が既に止められない状態になっている今では、単に経済的・地理的弱者だけが悲惨な状態に追い込まれてしまうことが、専門家から指摘されています。適正な規制に基づいた経済活動で富みを備蓄しながら、来るべき海面上昇や気候変動による被害を、経済援助や技術開発などによって軽減してゆくことが、ベターな方向性と言われています。


一度人間のegoの存在を認め、それと環境/ecoの「折り合い」を探るという、この展覧会の視点の深さは、こういったパブリックな企画においては、貴重なものだと思えます。


2.行政や企業の広告ベースではない、ボトムアップ式の運営
1.で書いたコンセプトの深さをもたらしたのは、おそらくこの企画の運営方法に関わるものだと思えます。パンフレットやホームページから考えると、この企画は作家の丸山芳子氏が海外のアート・イベントと連動した企画を丸山常生氏と考え、川口で工場跡を彫刻家に貸し出しながら美術展も運営していたART FACTORYという共同企画者を見つけだし、それぞれの個人的ネットワークから参加作家に声をかけていき、更に協賛者・協力者を増やしていって実現したもののようです。


最初のきっかけが作家ベースであり、キュレーションも含めた運営も、地方自治体や企業主導の大形美術イベントなどとはまったく違った、作家とその協力者による極めて自発性の高いものだったと思えます。こういう形式から、紋切り型ではないコンセプトが成立しえたと思えます。


また、このようなマネジメントが可能だったのは、運営の中心に丸山常生氏という、パフォーマンスを活動の主軸に置いている作家がいたことが大きいと思えます。一般に美術館やギャラリーを活動の場とするオブジェクト・レベルの作品を作る美術家と違い、パフォーマンスという表現は美術館という制度から自立しています。


現実的には、パフォーマンスという表現は美術館やギャラリーの企画としては数として多く無いという事情もあり、結果的にパフォーマーたちは自発的な発表の場の確保と運営を必要とします。また、国内だけでは活動の場が限られることから、パフォーマンスアーティストは他の分野の美術家と比べて、海外での活動や国際交流に積極的であり、世界各国を移動しながらイベント運営のノウハウと多様なアートシーンの情報を備蓄してきています。


このような背景をもった作家が、今回の企画を自ら立ち上げ、独自のネットワークを拡げながら計画を実現していったことによって、eco&ego展は、他に無い独自性を持ちえたのでしょう。


この展覧会、実は20日までです。興味を持った方はぜひチェックを。赤羽から京浜東北線で1駅、新宿から20分程度です。案外近いですよ。ただし作品の数と会場間の移動があるので、最低半日はかかります。早めの行動を。

eco&ego展


個人的なお薦めは、川口駅座商店街の石川雷太氏の作品、工場跡地の各展示、古民家の小瀬村真美氏の作品、リサイクルセンター向かいの倉庫にある兼古昭彦氏の作品などですが、個々の作品のレビューはまた明日。