バカにもわかる美術の本。(4)

●批評
おまいらの批評好きには本当に困ったもんです。いきなりここから読みはじめるのはいかがなものか。作品見ようね。とか皮肉に聞こえますか。ま、この美術本案内に特色があるとしたら「本で終わるな」というメッセージを入れ込んでいるところなので(なにしろ絵描きが書いてる読書案内だし)、そこんとこよろしく。

現在、日本で美術批評を学ぼうと思ったら、この本は絶対外せない。なにしろ現代美術批評の基礎であるグリーンバーグの文章をまともに日本語で読もうと思ったら、この本しかないのだ(昔紀伊国屋から邦訳あったみたいだけど、見た事ない)。また、グリーンバーグ以降のフリード、クラウスという展開もポイントが押さえられていて、一生ものです。難しかったら前後についてる岡崎・浅田・松浦鼎談を読もう。そこも十分難しいけど。1度で挫折して諦めないで、時間をかけて、思い出したら何度も何度もトライしよう。その都度、少しづつ世界が広がります。僕だってトライ中なんだ。いまだに。

驚いたことに、この重要な本が絶版中。えーちょっと前まではあったと思うんだけどなぁ。頑張って探してください。図書館で見つけたら、こっそりコピーね。僕は学生時代に、そういうコピー本何冊か持ってた(今でも家には同居人が「粗い石」をコピー本で持ってる)。

ん。これはいいぞ。色っぽい美術批評だ。特にトゥオンボリ論は秀逸。かっこいー。他にもアンチンボルトとかエルテとか。流石バルト先生、文章が流麗なので、ついついそのリズムに乗って読めてしまう。そこがクセモノと言えば言えるけど、こういう楽しさは、作品を見ることと同じように大事だと思う。なんか僕は上で実作品を見ることを重視した発言をしてるけど、批評文だって、もちろん立派な「作品」なんだよな。意味とか思想とかを読取ることは大事だけど、それと同じように「文章・文体」の気持よさだったり、可愛さだったりを体感することだって素晴らしい経験でしょう。これを原文で読める人が羨ましいなぁ。その気のある人は、がっつり「自分で翻訳」とかしてもいいかもね。個々の論文は長くないし。本自体も薄くて持ち運びやすいので、どこでもバルトできます。

まあ読んでおけ、と言われる定番。もうベタベタに基礎文献なので、買うしかない。今回の僕の読書案内は絵画偏重が激しいけど、もちろん美術批評には写真だって含まれるし、最近はデジタルアート/ビデオアートとかの方が良く目にするから、そういうものを考える時にはやっぱ外せないのだ。映画批評はそれ単体で独立しちゃってるけど、もちろん映画だって芸術。買って手元に置いておいて損はない。ネットの事だって射程に入ってるかもしれない…これは言い過ぎか。岩波文庫だと「ボードレール」という書名の中の1論文として入ってます。安いから、これでいいんじゃないかな。 晶文社ラシックスから「複製技術時代の芸術」という名前で本が出てて、これは他の写真論・映画論も入ってる。ただし若干高め。お好きな方をどうぞ。

椹木だ!野衣だ!高まるテンションとスピードがロケンロールな1冊。芸術は終わった、絵画も彫刻も死んだ、とにかく盗め、壊せ、混ぜ合わせろ、というアジテーションが素敵。かつて三島由紀夫吉本隆明の批評に「性的興奮を感じる」と言ったらしいけど、この本もセクシー。70年代以降の欧米の現代アートシーンをここまでサックリとナイフで切り取って見せてくれる手腕は比類ない。この読書案内も、ここに来てようやくナウな感じになってきましたな。ごく普通に、優れた「現代美術史」の本ともなっている。で、同じ著者の「日本・現代・美術」では、国内の現代美術史もわかる。2冊呼んじゃえば、とりあえず内外の現代アートはざっくり押さえられます。あと大事なのは、この本は「モテ」系だということ。いや根拠はないけど、これ持ってるとモテそうな気がするのは妄想ですかそうですか。とても感覚に訴える文体なので、性に合えば事前の勉強なしでも一気に読める。お薦め。


ふう。けっこう書いたな。あと1日、明日で完結させます。なかなか落ち穂拾いがありそうなので。んじゃまた。