GALLERY 千空間での「あおによし2」で見ることができた、わだときわ氏のリトグラフの作品3点は、印象に残るものでした。


「よつば」と題された作品は、手漉きの紙にダーマトや溶き墨によって植物をモチーフにした絵柄が描かれています。大きさは横が30cm程、縦が45cm程でしょうか?正確な数字は覚えていないのですが、手漉きの紙らしく4辺が有機的な曲線を描くもので、カッティングされていないため「真四角」ではありません。各辺には紙の繊維が微細にけばだっており、いわゆる「紙の耳」が生かされています。紙は真っ白ではなく褐色をしていて、微細にキラ(雲母)があるように見えます。


この紙の有機性は絵の内容と呼応していて、縦に長い構図、その長辺の紙の曲線に沿うように、画面上からダーマトの線がゆるやかなうねりを見せながら伸びてきて途中で4つのだ円が結ばれ、これが「よつば」のように見えます。同様のモチーフが画面のやや右よりに密にあり、あとの部分は地の空白が抜けていきます。図/地の両方にわたって溶き墨が薄く引かれていますが、この溶き墨の繊細なムラに墨の粒子が溜まり、流れながらも留まる濃度を持った水を想起させるマチエールが形作られています。色彩は主に緑のバリエーションがいくつか見られ、他に光沢を持った黄土色も見てとれます。


刷りは描画の新鮮さを失わない鮮やかなものです。この鮮やかさのため、一見品のいい紙にクレヨンなどによって直接描画がされたようなフレッシュな線の息遣いが感じられ、それがモチーフとなる植物の生命感をより強く喚起し、溶き墨がイメージさせる水の感触と相まって、まるで林の中の水たまりや、田んぼの温んだ水に手を差し入れたような、生々しい触覚や嗅覚まで喚起させられます。


さらりと見ただけなら、極めて素朴に描かれたように見えるその描画は、アルミ版に油性の固形描画材(ダーマト、クレヨン等)や溶き墨で図を描き、アラビアゴムによって非描画部分を親水化させ、そこにローラーで油性インクを引き、描画部分にのみインクを載せてプレス機によって紙に刷りとるという、リトグラフの技法の特性を生かしたからこそ「版画に見えない」新鮮さを得ています。同時に、版を介在させることにより、手漉きの紙に過度に力が加わることなく、描画と紙が一体化しすぎないシャープな「インクの乗り」が実現され、このことによって作品はある抽象性、「描き手の身体性はニュートラルになりながら、視覚的な息遣いはより純粋に定着させられる」状態を獲得することになります。


高知で手漉き紙の製造技法を学んできたという作家の興味はしかし、いわゆる工芸的な「紙作家」とは違った、明らかに絵画的な技法の探究の一環として紙の性質を追ってきたことがうかがえ、そのリトグラフ技法の軽やかな手さばきは、これも版画にみられがちな工芸性に傾くことのない、伸びやかな「絵を描くこと」を定着させています。作品に「台座」があることが、やや基底材の材質性を消してしまっていて、恐らく作品のみを壁に直接止めた方がよりよかったのではないかと思えましたが、いずれにせよ「あおによし」という主題にフィットした作品達と感じられました。


●あおによし2

  • 高崎賀朗・中村友香・平体文枝・堀由樹子・丸橋正幸・わだときわ
  • GALLERY 千空間
  • 6月3日(金)〜21日(火)
  • 11:00〜19:00
  • 定休日:水・木曜日
  • 渋谷区代々木1-28-1
  • 地図などは長岡造形大のページ参照 http://www.nagaoka-id.ac.jp/news/news_49.html