三鷹市美術ギャラリー/Colorful温泉 絵画の湯展(1)

三鷹市美術ギャラリーで行われている「Colorful温泉 絵画の湯展」は、とても面白い展覧会だった。三鷹市のコレクションからこの展覧会を企画したNPO法人MAG-netがチョイスした作品で構成されているが、その選択が素晴らしい。もちろん三鷹市の充実したストックがあっての上でのことだけれども、子供への教育という主題に可能な限り水準の高い作品をぶつけていて、それだけでも他の多くの大形美術館が参考にするべき内容ではないか。


子供に美術を発信しようとするとき、まず最初に美術(館)側がするミステイクは「親しみやすくしよう」として「水準を下げる」ことだ。この「Colorful温泉 絵画の湯展」では、とにかく良い作品を集めて、その「作品のよさ」を伝えるために、コンセプトを立て、展示を工夫し、子供/観客に思考のきっかけを与え、多数のワークショップも開催している。つまり、作品に沿って考えている。「美術をより親しみやすく」という発想から「水準を下げる」という展開を辿る企画者は、漠然とした「美術」というイメージ、難解だとか自閉的だとかいう流通しやすい美術のイメージを仮想敵にして、それを基準に物を考えている。そこでは個別の「作品」がないがしろにされる。


パンフレットのデザインも工夫され、見た目に美しいものになっている。予算の問題があるので、単純な言い方はできないが、よく公共の美術館で目にするのが、安い紙にスミ1色のチラシを作り、そこに「何が見えるかな?」みたいな、子供のレベルに合わせているように見えて子供をナメているような、つまらない問いかけを書いている印刷物だ。こういうものを適当に会場に置いて良しとしていては、とても子供の関心は惹けない。スミ1色だって優れたデザインは可能だろうし、紙1枚を魅力的に見せる方法だって工夫できるだろう。この絵画の湯展では、こういったデザインワークがきちんとされている。小さいながら、すべての作品がカラー印刷されているこのパンフにも、作品を大事にする意識が見てとれる。会場の見取り図も細やかな配慮がされている。


美術というものに関わっている人間なら、最低限そこに信頼すべき作品が存在するという前提がある筈だ。その「作品」が理解されにくいと感じるならば、その「作品」へ至る道筋を、「作品」に基づいて考えるべきであって、最初に「人集め」を目標にして「作品」を無視するのは、イベンターがすることで美術館がすることではない。この「Colorful温泉 絵画の湯展」は、その徹底して「作品」を基点に据える姿勢によって、自らの信ずる「美術(展)の基準」を公にしている。これは、既存の美術館あるいは美術展にたいする批評として成立している。


主に戦後の国内の美術の中から可能な範囲での良作を集め、それを「色」「形」「材料」といった基礎的な要素に分割して(この手付き自体が近代美術的なものだ)、そこから改めて作品との対話を促す(誰かにプレゼントするならどれが良いか、とか気に入ったものにカラーボールで投票して、その結果が透明なチューブに貯まったボールの数で一目でわかるとか)といった、単純な「観客参加型」ではない、「作品を見るというのは考えるということなのだ」というメッセージの軽やかな提示の仕方は知的で楽しい。


疑問もある。宇佐美圭司李禹煥の作品の前にイスを置き、ヘッドホンを設置して「絵をみながら音楽を聞く」という展示室があるが、ここでは絵画作品の自立が毀損され、やや安直な「作品への旅」が意図されている。テイ・トウワやバッハ、ジェフ・ベックといった選曲には思わずニヤリとしたが、成功しているとは言いがたい。観客が喜ぶ/喜ばないの問題ではなく、今回の企画は絵画と音楽を相互に「ぶつける」事にならず「依存」させる事になってしまっていて、絵画の鑑賞方法の教育として間違っている。


それでも、あえて壁面長を削って狭い空間に「広場」的な場所を作ったり、作品の展示の高さに気を配ったりしている点に、丁寧に子供の視線を考えている事が理解できる。同時に、作品の質に妥協しない点も、子供への“敬意”が見てとれる。照明をもう少し検討しても良い気がしたが、とにかく多くの子供にも、そして大人にも手ごたえのある展覧会になっていると思える。市民ボランティアがこれだけの展覧会を企画し実行しているのだから、世のプロと言われる人は驚くべきだろう。ボランティアだからできる、というのは言い逃れであって、このレベルを超えていかなければ「美術のプロ」ではないだろう(大体、この要素還元的な展示の方法論に拮抗するだけの勉強を、プロはしているのだろうか?)。


作品への言及は次回。とりあえず会期末が迫っている。下記の出品作家のネームバリューが目を引くだけでなく、それぞれの作家の作品の中でも、けっこう良いものが出ているので、お早めに。


●Colorful温泉 「絵画の湯」展