観光・イタリアルネサンス(21)
●雑記4
雑記。ようやくフィレンツェが終わりです。
前回の雑記で予告したスーパーの話しは棚に上げて、ホテルについてちょこっと書く。既にサンタ・マリア・ノヴェッラ駅至近に宿を取ったと書いた。日本の感覚だとこれは「いい所じゃん」となるのだが、イタリアの古都ではそうではない。ドゥオモを中心に石で作られてきた都市に再開発の余地はないから、近代の鉄道の駅というのは町のはしっこに作られる。「駅近く」というのは、要は中心を外れたところにあるということで、僕の利用したホテルも、相応の価格帯の所だ。別段超ビンボー旅行ということでもないので、期待もないけど覚悟もなかった。
結論としては、このあたりの中くらいの価格帯のヨーロピアン・タイプのホテルというのは、なかなかに面白い。快適とは書かないところがミソである。初日の夕方7:30くらいだったか、なんとも中途半端な古び方をしたウッディなカウンターに「ぶおなせーら」と訪れると、手慣れた感じのフロントマンが「Buonasera」と迎えてくれた。
そこで、間。
なんだ、このお見合い。
日本であったら立続けに「御予約ですか?お名前と御住所をこちらに・・・」とか言いながらチェックインの手続きが自動的に始まるが、イタリアはそんなヌルい国ではない。慌てて成田の旅行会社のカウンターで渡されたホテルチケットを差し出すと、ようやく書類をチェックしはじめ、カード・キーをくれる。この妙に近代的なカード・キーが、後々クセモノと気付くが、とにかく受取るとなんだか二言三言説明があった。なにしろこっちはコンニチワとコンバンワしか知らない。まぁほっておく。多分朝食の説明をしていたと思う。で、それが終わったら、
再び、間。
再び、お見合い。
スーツケース運んで案内してくれるボーイさんはいないようだ。チャオ。カードを見れば4Fに我々の部屋があるらしい*1から、広くもないロビーを見回してエレベーターまで自分達でスーツケースを引きずっていく。カウンターに合わせてトータル・コーディネートしたようなレトロなエレベーターは2機あって、上に人のマークが片方には3つ、片方には4つついている。これが最大積載人数であるらしい。で、ボタンを押す。
グォォォォォンーゴーガッタン。
あまり聞き慣れないエキセントリックなサウンドに若干引いていると、これまた微妙な間。なんか来ないなーと思ったら、グォン、という感じで扉が開いた。狭。とにかく入って4を押す。再びグォン、と鳴いた扉が閉ると、
グォォォォォンーゴーガッタガタガッタン。
キュートな揺れに、配偶者共々軽く硬直する。大丈夫なのかこのエレベーター、つうか我々の命。大変なガンバリを感じさせる振動のわりには、なかなか着かない。このスローなところがヨーロッパ文化の奥深さなのかと思い至った頃、ようやく到着である。褪せたカーペットを踏み部屋番を訪ね、カードキーを通すと無事開いた。んー。なんか廊下が長い。お、バスタブがある。ラッキー*2。ツインの部屋はまぁまぁの広さだが、次に我々がぎょっとしたのは、ベッドの「高さ」であった。高い。マットが異常に厚い。計ったわけではないが、感覚的にはなんか床から1メートルくらいのところに寝台が設定されている。夫婦揃ってチビの我々としては、乗り込むのが大変だ。どういうマットなんだと、少し掛け布団を捲ってみて、おらビックラした。
マットが二重である。しかも間に合板のようなものが挟んである。
しばし沈黙する。このマットの重層性が、ヨーロッパ文化の厚みというものなのかもしれないが、東洋のしがない観光客にとっては過剰だ。思いきって掛け布団を外し、マットを1つだけにしようとした。つくづく余計な行為であった。上のマットを外し、コルクの板を外した。そこで発見したのは、
一部が思いきり陥没した下段マット。しかもその陥没部分にシーツが詰め込んである。
がちょーん。
とにかくナイスなイベントが目白押しである。カードキーは、少しでも他の磁気カードと一緒にしておくとすぐ狂う。テレビはノイズばっかり。エアコンはやたら効くか切るかのどっちか。室内で湯が沸せない。トイレは流すのにコツがいる。3人乗り/4人乗りのエレベーターは、実際にその人数で乗ってはいけないことが後に判明*3。朝食のセルフサービスの「コーヒー」と書いてあるポットには実はミルクが入ってる。アメニティにシャンプーとリンスがない。いやヨーロッパ文化の凄みってのはかっこいいねコンチキショー。
イタリアという国のヤバさは、これらの事象が「しかたがない」で流れる所である。実際、とぼけた顔のホテルマンの顔を見ていると、こっちも「ま、しかたがないか」という気持ちになってくるからコワい。2日目にして、我々はこの素晴らしい「しかたがない」というムードを体得し始めた。いくつかのポイントを押さえると、不便を不便と思わなくなる。そしてその流儀に乗ってしまえば、ま、なんとかなる。で、なんとかなってしまえば、随所であんまり一生懸命ではないフィレンツェという町が、少しづつ馴染んでくる。くたびれた感じの、大小様々なトラップがあったこのホテルが懐かしくなったのは早くもローマに移った時で、そこで投宿したホテルが、ごく普通に快適なアメリカン・タイプだと分かった瞬間「あそこ面白かったね」と配偶者と話しあう事になった。
チップは朝でかける時、枕元に1ユーロコインを置いておいた。忘れた日もあったが、ルームキーピングはどの日もきちんとしていた。我々は日に2度3度とこのホテルに帰ってきた。土産物を買ったあと、美術館巡りの合間、1日のスケジュールを終えて夕食に出かける前。中心から離れているとはいえ、狭いフィレンツェだからその気になればすぐホテルに寄れる。この気安さが短期間で順応できた原因かもしれない。
誰にでもお勧めとは言わない。所詮は四泊の短期滞在で安易なことは言えない。なんでも「これがイタリア」で流されずに、適正なサービスを受けるには戦わなければならない場面もあるだろう。それでも、僕は機会があればもう一度くらい、あのホテルに泊まってみたいなーと思っている。何回でもとは思わないけどねぇ。
はい、あとアッシジとローマと2日分ですょ。