金刀比羅宮の展覧会について書いたあと、メールでご示唆を頂くことがあって、ちょっとまとめて日本の古典美術が見たいなと思っている。応挙や芦雪を見ようと思うと、首都圏なら東京国立博物館になってしまう。東博には重要な美術品が盛り沢山あって本館に常設されているのだけど、普段は特別展の平成館ばかりに足を運んでいて、本館をじっくり眺めたのはもう随分前だ。全部見切れているわけでもなし、展示物もその都度変るから、腰を据えて1日かけて見る日をつくる必要があるかもしれない。ただ、今だと応挙・芦雪ではなく土佐光起の「粟穂鶉図屏風」とか酒井抱一の「秋草図屏風」(これは見た事があるけど)とかが見られる。


日本の古典美術は中国・朝鮮半島との関係抜きで見られない。MIHO MUSEUMでの「中国・山東省の仏像」展はSPA!福田和也氏が「これは見ないとダメ」みたいなことを書いていて気になっていたのだけど、やはり素晴らしいものだったようだ。


多分見て来た人は存分に自慢して、見ていない人間を差別してもいいと想像する。被差別民としては、とりあえず東博の東洋館・アジアギャラリーはもう一度見直したい。MIHOでメインだったらしい東魏の仏像ではないものの、隋・唐のものは見られるようだ。ちなみに僕は谷口吉郎の東洋館は好きで、息子の谷口吉生氏の法隆寺宝物殿も、やや丸亀市猪熊弦一郎現代美術館のバリエーションに見えてしまうものの悪くないと思う。表慶館は外観というより、階段部分の内部空間とかが面白い(改修が終わってからは見ていない)。こうなってくると、やっぱり一番集客があるのであろう平成館の建築としての圧倒的ダメさがどうしても納得いかない。本館は個人的な好みではないものの歴史的存在ではあるのだし、だとするとなぜ平成館があの水準なのか理解に苦しむ。東京国立博物館といえば対外的には仮にも日本美術の顔なのだから(「本体」は京都・奈良なのかもしれないが)、もう壊してしまえ、とすら思う。


特別展として「京都五山 禅の文化展」が開催中で、これはこれでそうそう見られるものでもないのだろうから見ておきたい。

禅画よりはやはり彫像が興味をそそられる。禅宗では仏像が彫られないが、寺の開祖とかの彫刻がそのぶん活発になる、というのは、宗教での表象不可能性と表象の欲望の天秤みたいな関係を現していて興味深い。今応挙や芦雪を扱っている展覧会としては、なぜかひっそり千葉市美術館で「若冲とその時代」展とかが開かれている。この美術館は応挙や芦雪も持っているようなのだ。常設でも見せてくれるのだろうがせっかくの機会だから行っておきたい。


他には三井記念美術館で国宝「一遍聖絵」が展示されている。


首都圏で私立の美術館で日本の古典美術の質量を誇っている所の一つが根津美術館で、ここの「那智瀧図」を改めて確認したいと思っているのだけど、いかんせん改築工事のため休館していて、次回展示は平成21年秋となっている。ここは他にも尾形光琳の「燕子花図」とか応挙・鈴木其一とかを持っているのだけど、貸し出し展示とかをまとめてやってはいないのだろうか。


こんな感じで見られる範囲で見て行った後、10月に金刀比羅宮の特別公開に行ってみようかと考えはじめた。芸大美術館での展覧会に、金刀比羅宮が持っている高橋由一の作品群からビタ1枚もこなかったのはショックだったのだが、流石に遠方ではある。しかし冒頭のメールで鈴木了二氏による金刀比羅宮プロジェクトが傑作だとも教わり、応挙の絵は庭とあわせたインスタレーションという側面もある、なんてことまで知らされるとやはり興味が湧く。昨年直島までいって、帰りに丸亀まで寄っておいて金刀比羅宮を外していたことの迂闊さが悔しいが、岸岱の奥の書院は特別公開でないと見られないのだし、うっすら昨年行きはぐった奈義町現代美術館に足をのばすという野望もある。なんなら大原美術館を見ておくのも損ではないかもしれない。今はちょっと気分が盛り上がってまたもや突っ込みまくりのスケジュールを夢想しているが、頭が冷えたらやはり躊躇するだろうか。ルートの確認とかはこそこそしているのだけど。