殻々工房の展示作業は昨日無事終了、初日を迎えることができました。


・12日。朝は8時過ぎにのんびり起きて、長男に朝食を食べさせる(納豆御飯。配偶者は納豆が嫌いで手を出さない)。着替えをして、配偶者が自宅で仕事をする時間が必要なので、その間しばらく公園で長男と遊ぶ。作品は大型の物は既に発送済だし、小品と若干の道具・工具等は箱詰めしてキャリーに固定してあるから、慌てなければいけない理由はない。良い天気で、公園には金木犀の香りがしていた。二人でぶらんこに乗る。滑り台で滑る。適当に頃合いを見て帰宅する。


・10時45分に自宅を出る。11時02分に武蔵野線に乗り込む。ふと気づくと南浦和駅で、危うく寝過ごしそうになる。余裕をもった搬入だと思っていたけれど、ここ数ヶ月は個展準備以外にも忙しい要因があって、全体に寝不足気味なのだと思う。11時37分に大宮駅で宇都宮線快速ラビット宇都宮行きの先頭車両に乗る。行楽客がボックス席でにぎやかに話している。私は二人がけの椅子に一人で座って、足でキャリーを押えながら、姉とメールのやりとりをする。


・搬入の道具類を詰めた箱が長男に「おまる」を買った時の空き箱だとメールしたら、そういうところは実母のDNAだと返信される。父の納骨の時、母が骨壺を段ボールの箱に入れて来た事を言っているらしい。少しへこむ。


・うとうととしていたら古河に停車している。そういえば殻々工房はかつてこの町で人気のある店を開いていて、私も行ったことがある。そのときも店内で野沢二郎氏の作品展をしていて、最初からあの人たちはそういった指向を持っていたことがわかる。コンセプトは一貫しているなぁ、と思う。野沢さんと知り合い、殻々工房と出会った町は、今は私の義理の実家のある町となって、長男にとっての「田舎」になった。


・小山から先は列車は各駅停車となる。本を読み始める。ハイデッガーの講演と、西尾維新を持って来ているのは偶然なのだけど、意外と良い取り合わせだと思う。先週「サイコロジカル」を読み、今「化物語」上巻を読んでいる。「サイコロジカル」がメタ推理小説だったりといった側面がとても重要なのは理解できるけれども、私が西尾維新に読むのは、とてもベタに作中に埋め込まれた「問い」で、例えば不能な主人公とか、「能力(才能)」への猜疑・渇望とか、そういった切実さにこそこの作家のメタ性は裏付けられているのではないだろうか(あと、以前「化物語」では八九寺真宵を祖母的、と書いたけど、どうやら「姉的」なイメージらしい。実際に姉を持つ身としては、こんなにできた「姉」なんかいるか、と思うけれど)。


磯崎憲一郎さんが「(描写的な人は)電車で本なんか読まない。自分はずっと風景を見ている」と言っていた事を思い出しながら、本を読む。


・乗り換えの宇都宮で殻々工房の工房長から電話があり、那須は混雑している、最寄りのバス停まで迎えに行く、との電話が入る。2007年に長期個展をした際、ゴールデンウイークにバスが渋滞にはまってしまった時の事を思い出して焦る。なにしろ今日は6時から会場は開くのだ。時間は読めているつもりだが、押したらシャレにならない。少し動揺した。宝積寺を過ぎて車内が空いたので、ボックス席に移って持参したお弁当(配偶者が作ってくれたささみのチーズ入り海苔ロール+梅干し+さつまいもの煮たもの+御飯)を食べてしまう。


・13時44分、黒磯着。片道2520円。改札を出るとロータリーがあり、東野バスの発着場がある。1番乗場で次のバスをしばらく待つ。その間に携帯電話で別件の用事を済ませる。お世話になった方が会社を止めると聞いて驚いた。柔らかな物腰の女性で、とても信頼して頼りにしていたのだけれども、事案を終える前に縁が切れてしまうのは残念だった。体を大事に、過ごしてほしいと思う。


・14時10分にバスにのって黒磯駅前を出る。サファリパークに行く家族連れ、高齢の女性の集団、外国人女性のペアetc.でバスはおおよお満席になる。どんなに混むのか、と思った那須街道は意外と順調に動いて安心する。反対車線はそこそこ混んでいる。三連休の最終日の午後で、駅へ、あるいは都内へ向かう車線が混むのだろう。私が帰る時間には解消していそうな気がする。14時30分くらいに広谷路で降りる。


・殻々工房に電話して、特に遅れなかったので歩きますと伝えたが、やはり車を出してくれるそうだ。途中で拾われることにして歩き出す-と思ったらすぐに拾われた。メルセデスが出している2人乗りのsmart(http://www.smart-j.com/)にキャリーの荷物が載るか不安だったけれど、このくらいのものはあっさり積めた。


・工房着。多分14時40分くらいだったかなと思う。キャリーをおろして紐を解く。先行して届けていた作品を、殻々の住居部分から運び込む。包んでいた布と、エアーパッキンをはがして行く。これが案外手間取った。殻々の工房長に手伝って頂く。はがしたエアーパッキンをゴミとして出そうとしたら「リサイクルします」と言われた。流石に屋上緑化しているBe-h@useオーナーは違う。恐縮する。


・解いた作品を壁に並べて、配置を考える。持ち込んだのはM100号が2枚、F100号が1枚、S60号が1枚、P50号が1枚、1450mm×972mmの変形が1枚。あとは小品でF4相当のものが5点とF0相当が2点。わりと早い段階でM100号を1点外す。今回、キャンパスの地が大型のもので全て残されているのだけれども、そのキャンバスの生地を3点づつ2種類に分けた。化繊の、かなり白いキャンバスと、一般的なベージュの下地剤が塗布してあるキャンバスなのだけれど、外したのはベージュの下地を使った1点。環境的に、そんなにキャンバス素材の差がはっきり見えるわけではないのだけれど、ギャラリータイムであれば相応に見えるだろう。


・あちこち動かす。が、結局最初に構想していた形に近い配置に収まる。まぁそんなもんだろうとは思う。明快な直方体の空間の、最も長い壁面にF100、S60(DMに使ったもの)、P50と3点並べ、向かいの壁面にM100と変形の、今回大型のものでは唯一縦構図となる作品を置く。まず長辺の真ん中、S60の高さを決める。今回は低い位置に設置させない−というよりは、逆にかなり高い位置に設置することになる。


・工房長に作品を持ってもらい、高さを調整したらそこで上辺を壁にマーク。作品を一度外し、木枠の厚さを測り、マークした位置と天井までの距離にその数値を足してビスを打つ高さを決める。壁に柱がある場所に1本、それ以外にもう1本の2点止め。S60を固定したら、縦の長さが同じ(つまりビスを打つ高さがS60と同じ)F100の固定に移る。それが済めばS60との距離を測り、反対側のP50を同じ距離だけ離して、同様に固定する。対面のM100、縦構図の変形作品と、順次進めていく。殻々の電気ドリルは私の物より立派で少し重い。


・続いて小品。ここしばらく作っている、木枠を2枚使い画布をクリップで止めたもの。7点持ち込んだうち、結局1点外す。これは入口入ってすぐの会場長辺のミニカウンター的な棚に下辺をかなり近づけて置く。誤解されがちなのだけれども、最近私が試みているこの形式の設置では、作品それ自体は壁面に掛かっている。けして床に支えられていない(というより数ミリ浮いている)。この差はとても大きい。ここまでで4時を回ってしまう。予定より長引いている。車で迎えに来てもらって良かった。


・一休み。工房長にいれて頂いたお茶がとてもおいしい(トールグラスに入って涼やか)。続いて照明の設定。基本的に1点2灯づつ。ごく平均的に設置する。いくつかの照明を小品側のレールに移す。


・4時半過ぎにおおよそ終了。ざっと片付ける。外したM100は工房で保管して頂くため布で巻いてしまう。小品で外した1品はエアパッキンでくるんで持ち帰る。工具と作品をキャリーに固定して、私の作業は終了。掃除などをして開店準備に忙しい工房長の脇で、ゆっくり作品を眺めてみる。一度外に出て、会場に入り直して、導線にそって歩く。近づいて、離れて見てみる。南側の大きな窓の外から見てみる。1,2点だけ、直したいところを直す。こうしたチェックもあるけれど、一番大事なのは自分の作品を見ることだったりする。検討するとか、自己批評するとかの前に、ただ、アトリエとは違う場所で、見るのだ。そういった時間は凄く大事で、しかも貴重だ。


・6時に open。ビールと、カキのスモーク、きゅうりのピクルス、チキン+チップスを美味しくいただく。殻々のお酒は本当に美味しい。お客さんがちらほらやってくる。7時半に、工房長にお礼を言って帰ることにする。


・広谷路のバス停まで、真っ暗な道を歩く。私は既にここを歩き慣れているので楽しいくらいだが、まぁ普通は歩くような時間帯ではない。大きな道路に出て、明るくなる。到着して、バスがくるまで、最近携帯を持った母にメールをしたら、電話がかかって来た。返信しようとしたら電話がかかってしまったらしい。まだ操作がおぼつかないのだろう。搬入の様子を話ながら、なぜか近くを歩き回った。少し酔いが回っていたのだろうか。バス停を離れ、小道に入ったら急に足下がずぼっと落下した。真っ暗な、水たまりのような所に右足とキャリーが落ちてしまった。


・電話はまだ続いている。私は何事もなかったかのように話続けている。足を引き抜き、キャリーを引き上げる。足は靴の中までびしょびしょの泥だらけだが、キャリーは車輪部分と荷物を入れたカバーが汚れただけで作品と内容物に被害はなかった。私は安心して更に話続ける。でも、昔子供のとき田んぼにはまったかのような右足をかかえて埼玉まで帰るのが少し憂鬱になる。


・帰宅したのは11時30分。子供も配偶者も寝ていた。お風呂に入って、就寝。